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大谷翔平にあの“ヒザつき本塁打”を打たれて「とても悔しいです…」阪神・才木浩人24歳、“公立の星”ドラ3ピッチャーが佐々木朗希に勝つまで
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byJIJI PRESS
posted2023/06/23 17:04
6月4日ロッテに完封勝利。佐々木朗希に投げ勝ち、笑顔で手を振る阪神・才木浩人(24歳)
「高校生で抜けているのは藤平(尚真・横浜→現楽天)と今井(達也・作新学院→現西武)。センバツ優勝の村上は進学が決まっているし、無理にとは思わない。確かに総合力では好投手に違いないが、飛び抜けたものが?」
「藤平と今井は、1位候補の柳(裕也・明治大→現中日)や山岡(泰輔・東京ガス→現オリックス)と迷うレベル。将来性なら高校生か」
この年、ドラフトの中心は、創価大の大型本格派・田中正義(ソフトバンク→現日本ハム)。188cm87kgの堂々たる体躯から投げられる150キロ級の豪速球にスライダー、フォーク。アマチュア球界ではほぼ無敵の存在になっていた。
そのメモのなかに、こんな走り書きがある。
「私は関西担当で、関東の藤平、今井は見ていないからわからない。関西なら、プロ向きなのは平内。エンジン大きい、スケールある。好きなのは、才木。柔らかい。背(の伸び)が止まって筋肉付いてきたら150(キロ)の素材。腕の振りの遠心力◎」
関西地区担当のあるスカウトとの立ち話を、忘れないように、あとから急いでメモしたのだろう。乱雑な走り書きになっている。
“ソフトバンクドラ1”に打たれたホームラン
そして、やって来た3年生の夏。兵庫大会、才木浩人の相手は報徳学園だ。7月のその日、尼崎市記念公園野球場の小さなネット裏スタンドは、スカウトたちでいっぱいだった。
肩甲骨だけじゃない。ヒジも手首も、股関節も膝も、可動域を持つすべての関節が柔らかく見える。テークバックが小さいから、腕の前振りの運動量がそのまま球威に置き換わっているし、打者にはリリースポイントがものすごく見にくい。
速球は140キロ前半でも、高めのボールゾーンをついつい空振りする場面が何度も。5回までほぼ完璧に報徳打線を抑えていた才木投手。
しかしグラウンド整備を境にして、フィニッシュのバランスを崩し気味になる。足腰のへばりなのか、勝ちが見え始めた気負いなのか。