テニスPRESSBACK NUMBER
「骨肉腫があって、車いすテニスができている」最年少17歳で四大大会V、小田凱人が「病気を乗り越えた」と言わない理由「病気はあくまで人生の分岐点」
text by
秋山英宏Hidehiro Akiyama
photograph byAFP=JIJI PRESS
posted2023/06/13 11:01
プロ選手が参加できるようになった1968年のオープン化以降、四大大会男子シングルスで史上最年少の17歳1か月で優勝した小田凱人
「世界一がかかっているので、取れるなら、何がなんでも取りたい。1位がかかっていることはめちゃめちゃ意識している」
ベストを尽くせば結果は付いてくる、というような常套句は使わず、「何がなんでも取りたい」と強い言葉で言い切る。メディアの前で言葉にすれば余計に重圧を背負わされることは分かっているが、それでも目標を高く掲げ、それを口にしなくてはいられないのだろう。発した言葉が、自分を焚きつける燃料に変わるのか。
9歳で発症した骨肉腫「それがあって車いすテニスができている」
表彰式での優勝スピーチでは、英語で対戦相手のヒューエットを称え、周囲への感謝などを述べたのち、日本語に切り替え、ファンに語りかけた。
「これをきっかけに、車いすテニスを応援してほしい。僕がもっともっと車いすテニスを盛り上げて、もっと大きいスポーツにしていく」
また、表彰式のあとに開かれた記者会見では、車いすテニスを始めるきっかけとなった病気（9歳で骨肉腫を発症）について、こう話している。
「病気を乗り越えたという感情とは少し違う。乗り越えるべき壁ではなかったし、くじけなかったし、闘うものでもなかった。それをプラスにして、障害がないとできないスポーツ、限られた人しかできないスポーツなので、それがあって車いすテニスができているし、今の注目度がある。乗り越えたというより、あくまでも人生の分岐点だった」
僕が別の歴史を作りたい
国枝の存在がどれだけ励みになったのかと問う英語の質問には、こんな答えを返した。
「彼が引退した今、僕が別の歴史を作りたい。少しプレッシャーを感じるが、それを楽しみたい」
どうしてメディアの前で、こんなに力強い言葉、的確な言葉を並べられるのだろう。1月の全豪で本人に直接尋ねると、返ってきたのはこんな答えだった。
「最初は全然話せなかったし、詰まることも全然あったが、10代で四大大会を経験したり、（記者会見で）話す場を設けられていることで、あまり苦に感じないようになった」
場数を踏むことで表現力が磨かれたのか、その言葉は、聞く者の胸にきっちり届く。そして、この17歳はおそらく、トップアスリートという、常人には味わえない経験を積み重ねる者だけが持つ言葉の力をよく理解している。
骨肉腫にかかった少年少女に伝えたいメッセージ
小田はスポーツの持つメッセージ性にも気づいているだろう。記者会見で「病気は人生の分岐点だった」と話した小田は、こう言葉を継いだ。
