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['23年のキーマン(1)]中野拓夢「真価を呼び覚ましたコンバート」
posted2023/06/02 09:02
text by
中野椋(日刊スポーツ)Ryo Nakano
photograph by
Takuya Sugiyama
新指揮官から新たな役回りを与えられ、ベストナインにも選ばれた定位置を離れた。プロ3年目での劇的な変化を、当人はどう消化したのか。その胸の内を明かした。
自分の野球人生が、激変するかもしれない。ターニングポイントになりえる決定は、どこで耳にしたのか。中野拓夢は記憶をたどるように、「う~ん……」と低い声でうなり、視線を少し上げた。
「自分、二塁コンバートは記事で知ったんです」
昨年10月16日。岡田彰布監督の就任会見が行われてから2、3日たったタイミングだった。「中野に二塁コンバート案」の見出しが突然、スマホの画面を通して目に飛び込んできた。
遊撃手としての本能だろうか。どこか、その事実を避けようとする自分もいたという。
「正直に言うと、最初は受け入れられない部分もありました。そもそも当時はまだ、本当かどうかも分かりませんでしたし」
約1週間後、甲子園での秋季練習が始まった。「(二塁と遊撃)両方完璧にできるようになれば、(首脳陣も)使いやすくなってくるし、もっと出場機会も増えると思う」。報道陣にはそう言ったが、心は決して穏やかではなかった。
天童北部小2年で軟式野球を始めた時からの阪神ファンで、鳥谷敬に憧れた。プロ野球歴代2位の1939試合連続出場を記録した鉄人で、ゴールデン・グラブ賞5度のレジェンド。鳥谷と同じ久保田運動具店のブランド「スラッガー」のグラブを愛用し、甲子園の遊撃を守り抜くことに誰よりも憧れ、プロの門を叩いた。「最初は受け入れられなかった」――。それは偽らざる本音だった。