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「諦める必要はない」ジェイソン・ブラウンが現役続行を決意した“両親からの涙の電話”「来季もショーと競技を続けていく」《独占インタビュー》
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph byAkiko Tamura
posted2023/05/16 11:02
「アイスシアターオブニューヨーク」のガラと授賞式に登場したジェイソン・ブラウン
船橋でともに調整した“日本人スケーター”とは?
このショーに出演した後、ジェイソンは中庭健介コーチが渡辺倫果らを指導する、千葉の船橋にあるアイスリンクで世界選手権までのおよそ3週間、調整したという。
「ケンスケもリンカも本当に良くしてくれました。それに北米ではホッケーサイズのリンクが多いので、オリンピックサイズのリンクで調整することができたのはありがたかったです。世界選手権の準備専門のセッションを設けてくれたので、基本的にリンカと2人で氷を独占させてもらうことが多かったです」
今季はGPシリーズには出場しなかったが、全米選手権、世界選手権ともにほとんどノーミスの演技を滑り切った。どのようにして調整したのか。
「シーズン通して競技に出ることは無理だったので、これまでとは違ったアプローチで試みたんです。ショーをこなしていったので、体力的には問題なかった。競技は1シーズンに運が良くても10試合が精いっぱい。でもアイスショーは、こなす数が違います。「スターズオンアイス」だけで24ショー滑り、夏には3つの違うツアーにも参加しました。10月、1月にもあったし、2月には「アートオンアイス」、そして3月の初頭にユヅのショー。多くのパフォーマンスをする機会に恵まれてきました。時にはウォームアップの時間が取れないなど、様々な条件の下で、それでもベストな演技をしなくてはならない。その経験が、試合に生かせたのだと思うんです」
両親に泣きながら聞かれた「もう終わりなの?」
多くの選手たちにとって、トップスケーターを目指すモチベーションの一つは引退後にできるだけ多くのアイスショーに招聘されることだろう。ジェイソンの場合、すでに世界中のアイスショープロデューサーから引く手あまたの状態だ。それでも競技に出続けたいというモチベーションは、どこから来るのだろう。
「とっても良い質問ですね!」と絶叫してから、ジェイソンは言葉を選びながらこう説明した。
「北京オリンピックが終わって両親に電話したとき、泣きながら『もう終わりなの?』と聞かれました。当時はそれでも良いと感じていた。今は本がいったん終わって、続編を書いているような気持ちなんです」
「夏のショーが一段落すると、全米にまた出たいという気持ちが湧いてきたんです。両親が見に来られる大会で終わりたいという気持ちもあった。自分は選手として、まだ終わっていないという気持ちがなぜ湧いてくるのか、当初はよくわからなかったんです」
引退した他のスケーターたちとも、色々と話をしてみたという。
「すでに引退したスケーターのほとんどが、やめる時が来れば絶対自分でそうとわかる、と教えてくれました。中にはその時が来たと感じていないのに、押されるようにして引退してしまった人たちもいて、彼らは全員後悔していました」