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“美しい結末”を迎えた上谷沙弥と白いベルトの物語…横浜アリーナで不死鳥が蘇った日「ベルトに生かされていて、本当に幸せだった」
text by
原壮史Masashi Hara
photograph byMasashi Hara
posted2023/04/28 17:02
4月23日、スターダムの横浜アリーナ大会で入場する上谷沙弥。白川未奈に敗れ、1年4カ月にわたって防衛し続けた白いベルトをついに手放した
ベルトを失っても…横浜アリーナで蘇った不死鳥
16度目の防衛戦となった横浜アリーナで、上谷の入場をリングで待っていたのは、因縁の白川だった。
上谷がすべきことは明らかだった。再び不死鳥になるのだ。
またも白川の足攻めに苦しめられた上谷だったが、ニールキックから一気に畳みかけ、フェニックス・スプラッシュを放つチャンスを掴む。しかし、コーナーに上ったものの踏み切れずに座り込んでしまい、反撃を許した。
もしそのまま試合を終えていたら、仮に防衛に成功したとしても、上谷は白いベルトの絶対王者ではなくなっていただろう。自分自身とも、目の前の対戦相手とも、心から向き合えないのであれば――上谷は“全力のベルト”を泣かせてしまうことになる。
ハイペースな試合はまだ15分も経過していなかったが、旋回式のスタークラッシャーを放つと、上谷は再びコーナーへ向かった。泣き出しそうな顔で叫びながらコーナーポストを上り、ついにフェニックスとして宙を舞った。
白川はそれを返した。ようやく、4カ月前の続きが始まったのだ。
白川は、フェニックスを飛ぶ上谷を倒すことだけを望んでいた。「ちゃんとフェニックス飛んでみろよ」という言葉は、上谷への挑発であると同時に、2人にとっての希望でもあった。
欠場期間中に海外選手を発掘し、クラブ・ヴィーナスを結成。コズミック・エンジェルズから独立した。白川にとって白いベルトは“希望のベルト”だ。希望を手にするために、止まった時間を動かすために、全力で駆け抜けてきた。その全力が、ついに彼女に白いベルトをもたらした。
上谷沙弥と白川未奈は互いの色を少しずつ取り込み合って、横浜アリーナで共に新たな始まりを迎えた。
ベルトを手にした白川は言う。
「どんな過去でも、その過去が未来を輝かせてくれる」
白いベルトとの物語を終えた上谷は「ベルトに生かされていて、本当に幸せだった」と1年4カ月を振り返った。
「白いベルト、成長させてくれて本当にありがとう」
感謝の言葉でサヨナラを告げる。蘇った不死鳥は、自分自身の力で過去と未来を輝かせることができるだろう。
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