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寺地拳四朗vsオラスクアガはなぜ心震える激闘になったのか?「映像を見て気がついたんですけど…」加藤トレーナーが恐れた“名伯楽の手腕”
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2023/04/11 17:02
「年間ベストバウト級」の名勝負となった寺地拳四朗とアンソニー・オラスクアガの一戦。試合後、寺地を支える加藤健太トレーナーに話を聞いた
ロサンゼルス在住のエルナンデス氏は元ボクサーで、スーパーフェザー級の名世界王者となった弟、ヘナロ・エルナンデス(故人)をバックアップするために指導者になったという経歴を持つ。日本との縁も深くたびたび来日し、カットマンとして世界戦に出場する多くの日本人選手をサポート。2階級制覇を狙う中谷潤人(M.T)のトレーナーとしても知られている。
そのエルナンデス氏を加藤トレーナーは尊敬し、ゆえに恐れてもいた。
「一度アメリカで食事をしたんですけど、ものすごく知識が豊富で、職人肌というか、とことんボクシングを追求しているトレーナーです。ボクシングに対する考え方の違い、日本とアメリカの違いもかなり感じました。自分にないものをルディは持っているし、知っている。それが怖かったですね」
寺地の心が折れそうになったオラスクアガの粘り
試合が始まると、寺地は脚を動かし、得意のジャブ、ボディ打ちでオラスクアガに迫った。いつもの通り、そのテンポはとてつもなく速い。オラスクアガは手数こそ伸びないものの、鋭く、パワフルなリターンで対抗。寺地が有効打ではっきりと上回りながら、オラスクアガの強打を被弾するシーンもある。なかなか緊張感のある立ち上がりとなった。
それでも寺地はグイグイと攻め、3回には右を合わせてダウンを奪った。4回までのポイントをすべて押さえ、大きくリードを広げた。そして5回、オラスクアガのペースが明らかに落ちた。寺地のジャブやボディをあれだけ食らって効かないわけがない。ラウンドを重ねれば重ねるほど強いのが寺地の持ち味である。王者が勝利の方程式に挑戦者をはめこんだ――と思われた。
ところが6回は粘るオラスクアガが右を決め、不屈のスピリットで反撃に出た。寺地は上下にパンチを散らして食い止めるものの、一つ穴が開けば一気に持って行かれそうなオラスクアガの勢いだ。7回はさらに攻勢を強め、寺地が応じて激しい打撃戦となった。寺地が「相手が落ちてくれない。心が折れそうになった」と試合後に振り返った苦しい場面だ。8回、寺地は一転して距離を取り、休もうとしたがうまくいかない。9回にネジを巻き直し、ようやく粘りに粘るオラスクアガを沈めた――というのが目に映った光景だった。