24時間、プロレスラーでいることはできない

　スターダムに入る以前、ひめかは「言いたい放題、好きなことを言ってきた」選手だった。すぐに相手に噛みついたりもした。それが彼女のスタイルだった。

「スターダムに入ってからは会社の都合もありますし、自由奔放にやるのは控えた部分もあった。でも、もう引退するので（笑）。今後のことを考えなくてもいい立場だからこそ、伝えられることもある。特にSNSでの誹謗中傷だったり、おかしな距離感で絡んでくる人だったりは、正直しんどかったです。私が声を上げることで、そういうファンの人も改めてくれたら嬉しい。スターダムがここまで人気になったのは素晴らしいことですけど、見る人が増えれば増えるほど、そういう問題は起きやすくなりますから……」

SNS上の心ない言葉によって、ひめかは疲弊していった

　ひめかは「SNSは得意じゃないので負担にはなっちゃいました」と率直に打ち明ける。

「やっぱり試合以外の悩みはSNSかな。今の選手にとって、ある程度は義務みたいなものになっているので。『24時間、プロレスラーのひめかでいろ』と言われたらそれまでなんですが、自分はそれが耐えられなかった。“プロレスラー”ではないプライベートのときは、顔も見られない誰かから、好き勝手に評価されたくない。そこで苦しんだ面はあると思います」

　プロレスラーのひめかは、入場ゲートをくぐった瞬間にスイッチが入る。それまでは、「ギリギリまでふざけている“素のひめか”がいる」という。

「そこからはアドレナリンが出ているから、完全にプロレスラーでいられる。試合が終わって、コメントも出して、また素に戻るのはコスチュームを脱いだときですね」

コスチュームを身にまとっている間は、「プロレスラー・ひめか」のスイッチが入る

　プロレスラーではない時間の方が長い中で、多くの言葉や視線に晒されることが、ひめかにとって負担になっていた。

「たとえば、『ひめかは恵まれていた方だよ。昔のプロレスラーの方が大変だったよ。家になんか投げられたり、手紙にカミソリが入っていたり』と言われても……。つらさなんて人それぞれでしょう。他人と比べられるようなものではないと思います。少なくとも、言葉で切りつけられるのが、私はしんどかった」

　苦悩と葛藤の末に下した決断を、ナイーブだと言うことはできない。ひめかは「私はメンタルが弱いので」と語るが、潔く引退へ突き進む姿からは意志の強さがにじみ出ている。

「頑固ですね。決断は曲げない。どんな提案をされても。最近よく『どうせ復帰するんでしょ』って言われます。でも、復帰するメンタルがあるなら、そもそもやめません。続けています。復帰は100％ありません」

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