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仙台育英「9回2アウトから同点」…あの4番打者はなぜあれほど落ち着いていたのか? センバツ打率「5割3分8厘」斎藤陽とは
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byKYODO
posted2023/03/31 06:00
逆転サヨナラで敗れた仙台育英。しかし4番・斎藤陽の表情は悔しさよりも充足感が勝っているようだった
「元気でやっているつもりでも暗い気持ちになっていたんだなって、監督さんから声をかけられて気づきました。あの場面ではアウトになってた内容を考えて打席に立てるようになったのがよかったと思います」
驚愕の打率「5割3分8厘」
これもまた、斎藤がいかなる場面でも打席で笑顔を見せられるような心の余裕を持てる、ひとつのきっかけにもなった。
バットを強く振り、時折、打席で笑顔を見せる4番目のバッターは、また自分を省みる。
役割をこなせていると言っても、誰にでも課題はある。斎藤にとってそれは、長打率の低さだった。試合や実戦形式の練習を通じて数値化された自分と向き合うと、単打は出るがロングヒットが少ないことは明白だった。シーズンオフにはフィジカルトレーニングに時間を費やし筋力アップに努めたが、一朝一夕でスタイルが変われば苦労はない。
斎藤はそのことに気づいた。
「一周して『長打が出るわけじゃないんだ』ってわかってしまいました。そこからは、単打でも何でもヒットが出たり、次のバッターに繋げればいいやって」
笑みがこぼれる。今年のセンバツでは、打席でそんな表情を多く見せていた。
3試合で13打数7安打。打率は5割3分8厘。ヒットの全てが単打だった。
「短所を長所に」の思考
これこそが「仙台育英の4番」としてのあるべき姿なのだ――監督の須江の言葉が、そのことをより強調しているようだった。
「短所をなくすためにチャレンジしていったなかで、結果的にそれを長所にしたわけです。これは野球以外にも言えることですけど、ひとりの人間としてステップアップしていくなかで、自分で考えて答えにたどり着けたというのは、非常に素晴らしいことです」
日本一を知る4番は、センバツを「夏の糧になる」と言った。
でも、スタイルはしばらく、不変だろう。
そう感じさせるように、斎藤は言っていた。
「打席に立てば『打たなくちゃいけない』とは思うんでしょうけど、自分は繋ぐことを意識して。気持ちを楽にして立ちたいです」
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