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「巨人ドラフト6位だった男」戸郷翔征の原点…他球団スカウト「ブン投げですからねぇ…」否定的評価をひっくり返し、侍ジャパンになるまで
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKYODO
posted2023/03/10 17:50
WBC中国戦7回。ピンチをしのいだ日本2番手の戸郷翔征(右)を迎える大谷翔平
「ブン投げですからねぇ……」、ひと言で片付けられてしまうこともあった。つまり、肘の伸縮をほとんど利用せず、腕を振り回して投げてくるスタイル、いわゆる「アーム式」であることへの指摘だった。コントロールが暴れるはず、肘・肩の負担が大きく故障で短命に終わるはず……否定的な評価の理由は、誰もが「そこ」だった。
2018年ドラフトの6位指名。ちょっと待ってくださいよ……と、誰かに、文句の一つもぶつけたくなるような低い評価だった。
巨人スカウト「ちょっと安心しました」
戸郷翔征1年目の春、ある学生野球の現場で、巨人のスカウトの方から、「戸郷って、どう思います?」と訊かれたことがある。指名した当事者にとっても、期待と不安が表裏一体となっていたのだろう。
この時とばかり、彼のアドバンテージを並べ立てて、1位でもいいと思ってました……と言ったら、いくらなんでも、そこまでは……と苦笑いされてしまった。
高校生のサイドハンドでアベレージ145キロ前後という事実、ジャパンの強打線が自分のスイングをさせてもらえなかったタイミングの難しいフォーム。強引に投げているようで実はリリースが安定している不思議さ。変化球でも腕の振りが変わらない再現性の高さ。「覚悟」が伝わってくるようなファイティングスピリット……いくつも挙げられた彼の長所。
「そうですか。ちょっと安心しました」
ほんとうに安心したように笑ってくれたから、心配していたのだろう。
戸郷翔征という投手に、私はすごく勉強させられた。
「アーム式」を否定的に考える風潮は、昔からだ。しかし、どうなのだろうか。戸郷のように、高校時代からずっと変わらないフォームで投げて、過酷な一軍ローテーションを3年間全うして、大きな故障には至ってはいないケースもある。ならば、彼の体の構造や、動きのメカニズムには意外と合致したスタイルなのではないか。
真偽のほどが、実はよくわかっていない固定観念より、個人差による合理性のほうを確かめたほうが、「正答」に近づけるのではないか……野球の正答の幅が、また広がったような気がした。
高校時代から変わったこと
2023年スプリングキャンプ。今季から投手陣の「主将」を託された戸郷翔征は、14日間で6回ブルペン入りし、合計465球を投げ込んで、WBC日本代表に合流した。