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「ミルコの膝で藤田の皮膚がえぐれて…」“プロレスハンター”ミルコ・クロコップは記者ともバチバチだった?「お前はどこを見ていたんだ」
text by
長尾迪Susumu Nagao
photograph bySusumu Nagao
posted2023/03/05 12:21
2004年、インタビューに答えるミルコ・クロコップ。PRIDEの煽りVで発した「お前は何を言っているんだ」というフレーズはネットミームにもなった
東京ドームが揺れたノゲイラ戦
サップ戦を最後にミルコはMMAに専念することになる。PRIDEでKOを量産したことでその強さを認められ、2003年11月にPRIDEヘビー級暫定王者決定戦が組まれることになった。
対戦相手はブラジル人で柔術家のアントニオ・ホドリゴ・ノゲイラ。ノゲイラは関節技の極めの強さから柔術マジシャンとも呼ばれ、PRIDEファンの人気も高かった。一方のミルコは、当時はまだ「K-1から来た外敵」と見なされていた印象がある。
この試合に向けて来日したミルコは、到着してすぐに「俺のベルトはどこだ」と自信満々なことを関係者に言っていたようだ。自信家のミルコらしい話だし、それくらいの気持ちがないとこの世界では生き残れないのだろう。
ノゲイラとの試合は1ラウンドからミルコが打撃で圧倒し、ハイキックでダウンを奪ったところでラウンド終了のゴング。私はミルコの勝利を確信して次のラウンドを撮影していたが、一瞬の隙をついてノゲイラはテイクダウンからマウントを奪い、パンチの連打。ミルコがブリッジで返そうした動きに合わせて右腕を取り、逆転の腕十字を極めた。ミルコに残された道は、腕を折られるか、タップするかのどちらかしかなかった。
勝敗が決した瞬間、東京ドームが揺れた。私は喜びを爆発させるノゲイラを撮りながら、横目でミルコを見た。彼方を見て涙を流さんばかりのミルコの表情は、未だに忘れられない。
伏兵・ランデルマンにまさかの…
翌2004年、PRIDEはヘビー級のグランプリをスタートした。ミルコはもちろんこのトーナメントにエントリーした。勝ち進めばノゲイラへのリベンジ、そして「人類最強」「60億分の1の男」とも称されるエメリヤーエンコ・ヒョードルとの対戦も見えてくる。
4月のトーナメント1回戦の相手は、ケビン・ランデルマンだった。私はUFCのオフィシャルカメラマンをしていたので、彼の試合はすべて見ている。レスリングがベースで、瞬発力と機敏さが取り柄の選手だったが、すでに全盛期の強さはなく、体格もヘビー級では小兵の部類に入る。まさかミルコが取りこぼすことはないだろうが、タイプ的にはK-1のメルボルン大会で負けたマイケル・マクドナルドに似ている気がする。そんなことを考えながら、試合開始のゴングを聞いた。
開始1分過ぎのことだった。ランデルマンの左フックが、ミルコの顎を打ち抜きダウン。グラウンドでパンチを受け続けたミルコは、そのまま失神KO負けとなった。試合前の「まさか」は現実のものとなり、またしてもミルコの夢は道半ばで潰えてしまったのだ。<#3へ続く>
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