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「目の前で友達が殺されたんだ」クロアチアを背負って戦ったミルコ・クロコップが泣いた日…K-1デビューから撮り続けたカメラマンの証言
posted2023/03/05 12:22
text by
長尾迪Susumu Nagao
photograph by
Susumu Nagao
ケビン・ランデルマンに大金星を献上した1カ月後の2004年5月23日から、ミルコの復活ロードが始まった。初戦の金原弘光との試合は判定だったが、他の試合はKOか一本勝ちを続けて7連勝を飾る。KOした相手の中には、エメリヤーエンコ・ヒョードルの弟アレキサンダーも含まれていた。
“人類最強決定戦”であらためて感じた「ミルコの凄さ」
そして2005年8月、ついにPRIDEの頂点に君臨するヒョードルとのタイトルマッチにこぎつけた。同試合は当時の“人類最強決定戦”と位置づけられ、下馬評ではヒョードルの安定した実力を評価する声が多かったが、ミルコの打撃力を推す声も少なからずあった。
試合は、ミルコの打撃を恐れないヒョードルが常に主導権を握り、スタンドでもグラウンドでも決定的なチャンスを作らせないまま判定勝利。私は判定を待つミルコの表情にフォーカスを合わせたが、悔しさは見せずに淡々とその結果を受け入れている様子だった。即座にヒョードルを撮影すると、彼の顔にはミルコ以上のダメージが見て取れた。こんなに傷だらけのヒョードルは見たことがなく、あらためてミルコの凄さを実感した。
それにしても、ミルコは不思議な選手である。桁外れに強い選手のイメージがある反面、期待されるとコロリと負ける。そして、K-1グランプリ決勝のホースト戦やPRIDEでのノゲイラ戦のような、「負けてはいけない試合」で負けてしまう。ベルトをかけた試合や「ここぞ」という時に勝ち切れない、運のない選手なのかもしれない。
「僕だって人間だから涙を流すよ」
2006年5月には、PRIDE無差別級グランプリが幕を開けた。前年に敗れたヒョードルは出場しないが、3年前に惜敗したアントニオ・ホドリゴ・ノゲイラ、また4年前に引き分けた因縁のヴァンダレイ・シウバも出場する。このトーナメントは、ミルコのMMAの総決算とも言える大会だった。開幕戦を順当に勝ち上がったミルコは、7月の2回戦で柔道の五輪金メダリスト・吉田秀彦の右足をローキックで粉砕してTKO勝ち。準決勝にはミルコ、シウバ、ノゲイラ、ジョシュ・バーネットの4人が勝ち残った。
2006年9月10日はミルコにとって特別な日となった。シウバをハイキックで失神させると、決勝の相手は激闘の末にノゲイラを判定で破ったジョシュ。ミルコはスタンドを中心にジョシュを攻め立てると、最後はパウンド(グラウンドでのパンチ)で、涙を流しながら悲願のベルトを腰に巻いた。