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あの言葉のルーツも実はプロレス? 蝶野正洋に裏切られ、武藤敬司に沈められた男の“魂の叫び”…94年新日タッグ戦の“しょっぱい”試合
text by
高木圭介Keisuke Takagi
photograph by東京スポーツ新聞社
posted2023/03/03 11:01
武藤敬司・引退試合のリングに上がった蝶野正洋(2023年2月21日)。2人の戦いをきっかけに生まれた言葉が、今は違った形で定着している
当時の状況を説明すると、蝶野は9月にコスチュームを黒一色とし、ヒールに転向したばかり。その第1戦では10か月後には参議院議員となる馳浩(現・石川県知事)を、馳の地元・金沢にて血の海に沈めては極悪変身ぶりをアピール。まだ誰とも徒党を組んではおらず、正式なタッグパートナーもいない時期だったため、天龍源一郎率いるWARへのレンタル移籍期間を終え、新日本へと出戻ったばかりのマシンとタッグ結成するに至った。
昭和時代より、タッグリーグ戦(世界最強タッグ決定リーグ戦)を年末名物にし続けてきた全日本プロレスとは違い、新日本のタッグリーグ戦はメンバーこそ豪華なのに、不思議と盛り上がりには欠くというジンクスに悩まされていた。
この年の出場チームは武藤&馳、蝶野&マシン、ヘル・レイザーズ(パワー・ウォリアー&ホーク・ウォリアー)、藤波辰爾&藤原喜明、スコット・ノートン&木戸修、橋本真也&中西学、長州力&谷津嘉章、J.J.ジャックス(野上彰&飯塚孝之)、マイク・イーノス&ロード・スティーブン・リーガル、ネイルズ&ロン・シモンズと、今となっては豪華にも感じるものの、開幕戦(10月19日)からシリーズを通してスポーツ紙等で話題となり続けたのは蝶野とマシンの仲間割れ問題ばかりだった。
武藤&馳に痛めつけられたマシン“魂の叫び”
マシンとマイクアピールといえば、85年5月17日(熊本県立総合体育館)の「お前は平田だろう!」があまりに有名だが、これは先輩・藤波辰巳(現・辰爾)の口から発せられた言葉。マシンは業界タブーとも言えるマスクマンの正体を、あまりに堂々と暴露されてしまった被害者に過ぎない。
そして9年後の「しょっぱい~」は後輩・蝶野に裏切られ、同じく後輩である武藤や馳に散々痛めつけられたうえに、口から出てしまった被害者による魂の叫びだった。
場所は大相撲の本拠地である・両国国技館。プロレスラーであるマシンの口から初めて公の場にて堂々と世に出た「しょっぱい」なる隠語は、プロレスファンを中心にプチ流行した。これがプロレス好きな芸能人やお笑い芸人などによって、思いのほか語られ続け、いつしか「しょっぱい」は隠語ではなくなりつつあった。