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スポーツ物見遊山BACK NUMBER
武藤敬司は日本初のスキンヘッドヒーロー?「イメチェンするからさぁ」フードを脱いだ瞬間、高田延彦も呆然とした20世紀最後のサプライズ
text by
高木圭介Keisuke Takagi
photograph by東京スポーツ新聞社
posted2023/02/21 17:01
2000年の大晦日、リングの上で「スキンヘッド」に変身した姿を披露した武藤敬司
そんな武藤だったが、90年代中盤より、徐々に頭頂部が薄くなってきたことに悩まされていた。試合中、対戦相手に髪を鷲づかみにされると、露骨に嫌な顔をしていたし、会場でも薄くなった頭髪に関する野次もよく飛んでいた。実際、そんな武藤の姿を撮影するカメラマンたちも、リング上を照らしつける照明と黒い頭髪とのコントラストで、より残酷にクッキリと浮かび上がる武藤の頭皮に修整を入れたりなどと苦慮していたものだ。
武藤が自身のために作曲された初代の入場テーマ曲『HOLD OUT』を2代目の『TRIUMPH』に変更したのは95年9月のこと。その理由に関して破壊王・橋本真也が『HOLD OUT』のメロディーに乗せて「♪ムトちゃんはハゲる~、ムトちゃんはハゲる~、頭の先からどんどんハゲてくる~」なる替え歌を頻繁に歌っており、「それで嫌になった」(武藤)と語っている。破壊王は、他にもさまざまな選手のテーマ曲で悪口込みの替え歌を作っては歌ってはいたが……。
ハゲ頭と、それをからかう替え歌との相性はピッタンコで、古くは昭和初期の児童文学『仁兵衛学校』(千葉省三作)でも楠木正成と息子の正行の別れが謳われる唱歌『桜井の別れ』を「♪青葉茂れる桜井の里のわたりのハゲアタマ~、木(こ)の下陰(したかげ)にハゲアタマ~」と、老教師をからかう子どもたちが替え歌にしては合唱しているなんて描写があるほどだ。『仁兵衛学校』は78年に大正や昭和初期の児童文学をアニメ化した『まんがこども文庫』(TBS系)でも放送されているので、現在の40代後半〜50代の人でもご存知かも知れない。
“中年の重鎮”へシフトするために変身
少々脱線してしまったが、武藤がスキンヘッドへの変身を決意したのは38歳の時。そろそろ女性ファン獲得要員から、中年の重鎮へのシフトが求められる時期だった。
当時、オーナーであるアントニオ猪木の指令で格闘技路線を推進していた新日本プロレスに居場所を見いだせなくなっていた武藤は2000年4月に米WCWへの移籍を決意する。家族も連れて米国に移住したのだが、当時のWCW内部は社内政治的に新日本以上にゴタゴタと迷走しており、ほとんど活躍の場もないまま年末に帰国。帰国第1戦となる大晦日興行で起死回生を狙う立場にあった。