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「出汁をドイツに持ち込みました」板倉滉のW杯直前復帰を支えたシェフの“隠し味と栄養”「池田さんに頼んで良かったなと思うのは…」
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byChristian Verheyen/Getty Images
posted2023/02/17 11:02
日本代表DF板倉滉の素顔を、元サッカー選手で専属シェフの池田晃太さんに教えてもらった
板倉を筆頭に多くの日本人選手の住むデュッセルドルフには、日本食を扱う食材店がいくつもある。それはほどなくわかったが、調べていくうちに、ある事実に気がついた。“基本的”な調味料であれば簡単に手に入るが、品質にこだわった一品やプチ贅沢品はなかなか手に入らないということだ。
使った出汁は、板倉の母親もよく利用していたものだった
だから、日本から大量に持ち込むことにしたものがあった。それが「出汁(だし)」だ。
「日本から持っていったもので何が良かったかと言われたら、出汁ですよね。僕は茅乃舎の(高級な出汁)が結構好きで、よく使っていました。めんつゆなどは普通に手に入りますけど、ああいう美味しいものは現地ではすぐに手に入らないので」
そのような努力の甲斐もあって、昨シーズンいっぱいまでの試用期間を経て、今シーズンから専属シェフを正式に任されるようになった。
「アスリートの身体のことをしっかりと考えてくれるから」というのが、板倉にとっての決め手だったという。ただ、池田は予期せぬ運も味方につけていた。
それが、あの茅乃舎の出汁だった。
料理をおいしくしてくれるのはシェフがかけた手間・暇であり、その基盤となる出汁や調味料である。茅乃舎の出汁は池田がもともと好んで使っていたから持ち込んだわけだが……。
実は、あとでわかったことなのだが、板倉の母親も好きでこの出汁をよく使っていたという。
池田が出していた料理の奥底に眠るのは、板倉がおふくろの味を思い出すようなものだったのだ。日本の将来を背負うディフェンダーの専属シェフのポジションを手にしたのは、長年かけて学び、試行錯誤してきた努力が最大の要因だが、その努力はちょっとした運も味方につけてくれたのかもしれない。
板倉選手は人と関わるのがうまいんです
こうして板倉の活躍をサポートするために働くことになったわけだが、最初にサポートをしてもらったのは池田の方だった。年齢は池田のほうが4つ上なのだが、海外生活の経験が3年長い板倉の心配りには圧倒された。
「ドイツに来て慣れないころには色々な場所に連れて行ってもらいましたし、板倉選手が関わっている人たちを紹介してくれて、そういう方たちとも仲良くさせてもらうようになりました。本当に働きやすい環境をすぐに作ってくれたんですよね。板倉選手はコミュニケーション力が高いといえばいいのか、社交的だといえばいいのか。とにかく、人と関わるのがうまいですよね。助けられているのは僕の方かもしれません」
そんな池田がシェフになってから板倉が口にする機会が増えたものの代表格が、フルーツだ。