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なぜ「守護神ダルビッシュ」は誕生した? 「藤川球児には謝った」山田久志がノートを真っ黒にして考えた世界一の継投術〈WBC連覇のウラ話〉
posted2023/02/20 17:23
text by
永谷脩Osamu Nagatani
photograph by
Hideki Sugiyama
Number726号(2009年4月2日発売)に掲載された『山田久志「投手コーチが見せた魔術」』を特別に無料公開します。
「日の丸はものすごく重いものだというのがよくわかった。二度とこんなしんどい思いをしたくない。王さんが病で倒れたのもわかる気がするんだ」
戦い終えた安堵感からか、本音がこぼれた。
投手コーチ山田久志は国際舞台で日の丸をつけて戦うのは初めての経験。
代表コーチに選任された時、「日の丸の重みに60歳を過ぎてワクワクする思いがある。こんなチャンスは最後だから、山田の野球感の集大成にしたい」と言って引き受けた。投手のことを任され、継投から交代時期の権限を与えられたチーム最年長の男。世界制覇の陰でチーム防御率1.71を誇る世界一の投手陣を作り上げた。
「準決勝の5回途中で松坂大輔がマウンドを降りる時、みんなに“すみません”と言ってくれた。大輔には『チームをまとめてくれよ』とは言ったけれど彼は十分に理解してチームの勝利のために投げてくれたんだ。投手陣の“陣”というのが出来上がったと思ったよ。投手を選ぶに当たっての人選がよかった」
連覇を果たした理由を山田はこう語った。
山田投手コーチが優先した“仲の良さ”
今回、MVPを獲得した松坂は投手陣のリーダー。彼には同世代で常に行動を共にする、杉内の存在が大きいと山田は考えていた。海外での長期滞在はストレスがたまる。そのため、孤立する事のないように、力が同程度ならば、仲のいい者同士を選ぶ事にしたのだ。
「中継ぎの専門がいない中、左の山口鉄也の存在が役立つ時がくる。彼はよく、内海哲也と行動を共にする。だから、山口を頼るならば、内海は外せないなと思った。和田毅の役回りは杉内が十分果たせるからね」
最終選考時に、不思議がられた内海の代表入りはこうして決まった。そして、ダルビッシュには仲のいい涌井、松坂には杉内につなげることで、気持ちよくマウンドを降りられるように配慮した。