フィギュアスケート、氷上の華BACK NUMBER
“あのワリエワのコーチ”に移籍し、批判殺到したイタリア選手の告白「スポーツは政治的ではいけない」「多くのネガティブな反応があった」
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph byGetty Images
posted2023/01/31 17:00
エテリ・トゥトベリーゼのもとへ移籍し、欧州選手権に出場したイタリアのダニエル・グラスル
会場にトゥトベリーゼ本人の姿はなかった
エスポーの会場には、トゥトベリーゼ本人は来なかったが、アシスタントコーチであるダニール・グレイヘンガウスとセルゲイ・デュダコフの二人が登場した。彼らはグラスルの他に、ジョージアのニカ・エガーズそしてモリシ・クヴィテラシビリの時もボード際に立った。トゥトベリーゼに指導を受けていたクヴィテラシビリは、開戦後モスクワを出てイタリアに拠点を移したが、まだリモートで彼らの指導を受けているということなのだろう。
SPの日、グラスルは見るからに不安そうな表情で氷上に立った。ジャンプ技術に独特の癖がある選手だが、調子が良ければ4ルッツ、4ループなども成功させる。だがこの日は冒頭のルッツが2回転になり、SP8位という結果になった。
滑り終わったグラスルは見ていて痛々しいほど憔悴しきっており、顔をゆがめて泣き崩れた。リンク際で見守っていたグレイヘンガウスも、もらい泣きをしているかのように見えた。だが二人のコーチは、キス&クライには同席しなかった。ニカ・エガーズの時だけは横に坐ったが、グラスルの時は目立たないよう自粛したのか、イタリアスケート連盟側からのリクエストだったのかは定かではない。
グラスルが告白した「トゥトベリーゼに移った理由」
演技後、ミックスゾーンに来るのかどうか懸念したが、グラスルはちゃんとやってきた。そしてまず、こうコメントした。
「ものすごくプレッシャーを感じて、かつてなかったほど緊張していました。その理由は、コーチを変えたことで多くのネガティブな反応があったからです」
予測できたであろうこの状況をおしてまで、モスクワに行った理由は何だったのか。
「僕はオリンピックの後で、モチベーションを失ってしまったんです。自分の将来のために、ベストな選択をしたいと思った。スポーツは政治的であってはいけないと思っています。今のトレーニング環境には本当に満足しているし、これからも続けて行きたいと思っています」