フィギュアスケート、氷上の華BACK NUMBER
“あのワリエワのコーチ”に移籍し、批判殺到したイタリア選手の告白「スポーツは政治的ではいけない」「多くのネガティブな反応があった」
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph byGetty Images
posted2023/01/31 17:00
エテリ・トゥトベリーゼのもとへ移籍し、欧州選手権に出場したイタリアのダニエル・グラスル
トゥトベリーゼは、グラスルにとって“正しい選択”か?
トゥトベリーゼのところに行くことを、いつから考えていたのか。他にもコーチの候補はいたのだろうか。そう聞くと、グラスルはこう答えた。
「彼女は僕から見たら、世界一のコーチ。(北京)オリンピックが終わってから、すぐに彼女に指導を受けたいと思っていたけれど、状況的に難しかったので……」
それでアメリカに拠点を変えてみたもののしっくりこなくて、帰国。だがイタリア選手権で表彰台を逃して、ついに一大決意をしたということなのだろう。イタリアスケート連盟の承認を受けてのことだが、交渉は本人が直接トゥトベリーゼに連絡をとったのだという。グラスルはワリエワ事件に関しての感想を聞かれ、「コーチは関係ないと思う」と答えた。
もちろんどの選手にも、自分にとってベストだと思えるコーチを選ぶ権利はある。だが男子選手の育成に関してはほとんど実績がないトゥトベリーゼ。選手に違法薬物を与えたのではという疑惑が拭えない彼女が、グラスルにとって正しい選択かどうかはわからない。
IOCはロシアとベラルーシの復帰を検討中
男子SPが行われた1月25日、驚いたことにIOCは2024年パリオリンピック、2026年ミラノ=コルティナオリンピックに向けて、「侵略戦争を支持していないこと」などの条件付きでロシアとベラルーシの選手の個人としての参加を前向きに検討中であることを発表した。
もともとロシアが締め出された理由である、侵略戦争は終結するどころか空爆は激しくなっている。さらにワリエワのドーピング事件も、納得のいく結論が出されていない。フィギュア団体戦のロシアの金メダルをどうするのか、IOCは放置したままで2位のアメリカ、3位の日本の選手たちにもメダルは授与されていない。
そんな中で、IOCは再びロシア選手の参加を許すという。
国際アスリート支援団体「グローバル・アスリート」は即時に「ロシアがIOCをコントロールしていることが明白になった」「ロシアの下僕としてIOCは歴史の誤った側に陥り、正義よりも政治力、平和よりも戦争を選択した」と厳しい声明を出した。