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テニスPRESSBACK NUMBER
「うつです。治療しましょう」元世界60位、テニス・伊藤竜馬34歳が初めて明かす”うつ病と診断されるまで”「トレーニングしないと不安が…」
posted2023/01/29 17:01
text by
内田暁Akatsuki Uchida
photograph by
Hiromasa Mano
「自分に起きたことは、誰にでも起きうることだと知って欲しい」。伊藤の身に何が起きていたのか、本人が告白する。(『Number Web』ノンフィクション 全2回の前編/後編も)
始まりは2019年の秋ごろ
“異変”の始まりは思い起こせば、「2019年の秋ごろだった」と、伊藤竜馬はポツリポツリと語りはじめた。
それは、ジムやコートで一心不乱に汗を流すという、一見するとモチベーションや意欲のような姿で現れた。だが、根源にあったのは、対極とも言える精神状態だった。
「なんだか疲れやすくなったり、メンタルがちょっと落ちたり。だけど自分でも理由が分からないから、『ちょっとトレーニングやって紛らわそう』みたいな感じだったんです」
本人はその時を、「ちょっと」と軽く振り返る。だが実際には2~3カ月間、ほぼ毎日ジムに通い詰めたという。その姿が周囲には、やや異様に映ったのだろう。
トレーニングしないとドッと衰えてしまうんじゃないか
「ナショナルトレーニングセンター(NTC)のドクターに聞いたら、“オーバートレーニング症候群”だと言われたんです。なのでトレーニングの負荷を下げたり、1週間のうち2~3日はオフにして、練習でもそこまで追い込まないようにと言われて……」
オーバートレーニング症候群とは、「スポーツなどによって生じた生理的な疲労が十分に回復しないまま積み重なって引き起こされる慢性疲労状態(厚生労働省ウェブサイトより)」。つまりは過度な練習により、疲労が蓄積することだ。
ただ伊藤の場合は、そもそもの発端に、心身の疲労があった。
「自分のメンタル的に、すごく不安感が強い精神状態になっていた。年齢的にも31歳になった頃で、トレーニングしないとドッと衰えてしまうんじゃないかとか、そんな風に考えてしまっていたと思います」
加えて、翌年の夏に控えていた東京オリンピックの存在も、伊藤の焦燥を加速させる。結果的にコロナ禍の影響で大会は1年延期となるが、当時は2020年夏に行われると信じていた。
テニス選手のオリンピック出場圏は、世界ランキング70位前後。デッドラインは、開催年の6月上旬である。2019年末時点での伊藤のランキングは140位台。約半年で70位まで上げるのは容易ではないが、伊藤には、かつてその高いハードルをクリアした実績があった。