フィギュアスケートPRESSBACK NUMBER
ドーピング問題から1年 ワリエワ16歳が騒動をモチーフにした衝撃プログラムで見せた決意とは「過失なし」裁定に再び紛糾
text by
栗田智Satoshi Kurita
photograph bySputnik/KYODO
posted2023/01/15 11:02
ワリエワの今季のフリーでは、自身のドーピング騒動を想起させる振り付けがある
そんな中にあって大きな物議を醸したのは今シーズンのフリープログラム「映画『トゥルーマン・ショー』より」である。
演技の最後に黒い布で顔を覆い隠すのだが、これは五輪の公式練習時に記者からの質問を避けるためフードをかぶり取材ゾーンを無言で通り抜けた場面を想起させるものだ。
初披露となった9月のテストスケートでは、観衆の声援を受けながら最後まで滑り切ったものの、当時の感情が蘇ったのだろう、演技後は沈痛な表情を浮かべ、涙ぐむ素振りも見せた。
これを捉えて、「五輪のあの騒動を思い出させるひどいプログラム」、「カミラは練習や大会のたびに精神的ダメージを受けるのでは」、「スキャンダラスなプログラムで注目を集めようという意図が感じられる」など、ワリエワのみならずコーチのエテリ・トゥトベリーゼと振付師のダニイル・グレイヘンガウスへの批判の声が上がった。
黒い布で覆った顔を…新フリーに込めた思い
ドーピング問題の渦中にあり、無難なプログラムを選ぶこともできただろう。しかし、そうはせず、今シーズンの彼女だからこそできるプログラムをあえて選んだ。五輪の騒動の最中、打ちのめされ、ぼろぼろになった自分の姿をプログラムに込め昇華させる方法を選んだ。
見落としていけないのは、演技が顔を覆い隠して終わるのではなく、そこから布をはぎ取って顔を見せ、まっすぐ前を見据える点である。これは現実を受け入れ、逃げ隠れせず戦うという強いメッセージでもある。
実際、国内グランプリシリーズでは10月の第1戦モスクワ大会、11月の第3戦カザン大会と勝利し、大会を追うごとに、布をはぎ取る際の目に力が感じられるようになり、悲壮感のようなものがなくなっていく様子が見て取れる(映像があればぜひ確認してほしい)。