濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「孤独も感じました」KAIRIの言葉に号泣、白川戦の批判…それでもスターダム白の王者・上谷沙弥はここまで頼もしくなった「歴史に名前を刻みたい」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2023/01/07 17:00
12月29日の梅咲遥戦に勝利し、12回目の防衛を果たした上谷沙弥
防衛を続けるために必要だったのは、単なる実力ではないと上谷は言う。
「度量というのか器というのか。ぶつけられた思いを全部受け止めて、その上ではねのけなくてはいけないんです、チャンピオンは。そのことが身に染みた1年でもありました」
白川未奈の負傷、SNSでは容赦ない批判にさらされた
11月にも「思いもよらない試合」を経験した。3日の広島大会。白川未奈との防衛戦は後味の悪いものになってしまった。必殺技フェニックス・スプラッシュが顔面に入り、白川は顎を負傷。歯も折れた。実質レフェリーストップと言えるフィニッシュだ。そこから白川は12.29両国まで欠場に。
上谷はSNSで容赦のない批判にさらされた。プロレスは相手の技を受け、観客に闘いを“見せる”要素が強い。だからこそ、激しい攻防の中でもケガを「しない、させない」ことが重要だ。上谷はそれができなかったのだと怒る者がいた。
ケガをさせてはいけない。しかしプロレスはケガがつきものでもある。独特なジャンルであるプロレスラーの覚悟は伝わりにくいのかもしれない。上谷を責めたところで白川が喜ぶわけもないのだが。ただでさえ落ち込んでいた上谷は、SNSで追い討ちをかけられた。
「いろいろ考えました。自分のプロレスについても。でも最後は自分を信じるしかなかった。ファンの人たちの声も嬉しいんですけど、最後は自分で自分を奮い立たせるしかないんです。それしかできなかったのかもしれない」
実際のところを言えば、再び落ちたどん底からすぐに這い上がらなくてはいけなかった。約2週間後の11月19日にKAIRIとの防衛戦が待っていた。この試合を30分フルタイムドローで乗り切り、上谷はまたチャンピオンとして大きくなった。確かに彼女は自分を奮い立たせたのだ。
梅咲戦で感じた貫禄「絶対ここでのし上がるという気持ち」
12.29両国の梅咲戦では、フェニックス・スプラッシュに次ぐ得意技ファイヤーバード・スプラッシュをかわされる場面があった。試合後、上谷は「王者の教訓として出したので、受け切ってほしかった」と語っている。
「教訓であり王者からのギフトというか。ファイヤーバードを受け切って、そこから先の展開もあったと思うんですよ。死力を尽くして、その向こうにまで行った時に、お客さんの魂を震わせるような試合ができるんだと思います」