濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「孤独も感じました」KAIRIの言葉に号泣、白川戦の批判…それでもスターダム白の王者・上谷沙弥はここまで頼もしくなった「歴史に名前を刻みたい」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2023/01/07 17:00
12月29日の梅咲遥戦に勝利し、12回目の防衛を果たした上谷沙弥
”底”に落ちた上谷のターニングポイント
防衛戦でありながら、先輩に“挑む”という構図でもある試合の中で、未熟さをさらけ出してしまうこともあった。昨年、WWEでの闘いを終えたKAIRI(カイリ・セイン)が帰国して古巣スターダムに参戦。KAIRIも白いベルトにこだわりを持つ選手だ。
上谷は他にチャレンジャーがいる状態でもKAIRIを強く意識する発言をした。その結果、KAIRIには「ベルトが泣いてるよ」と指摘されることになった。上谷はバックステージで号泣している。
「あの時が一つの“底”でした」と上谷は言う。だが“底”に落ちたら上がるしかない。チャンピオンには意外な転機が待っていた。
8月21日の名古屋大会。KAIRIとの防衛戦が正式に決まっていた。ところがKAIRIが新型コロナウイルス陽性反応のため欠場することに。発表されたのは大会2日前だった。
急遽、ひめかが挑戦者に決まる。カード変更、しかも大型パワーファイターのひめかはKAIRIとはタイプが違うからやりにくい。ひめかにとっては降ってわいたタイトルマッチ。どちらも対策、準備が不十分なはずだった。
なのに、この“黄金世代”同士の対戦はこれ以上ないほど噛み合った。ハイフライヤーである上谷を、ひめかはパワーとサイズで真っ向から打ち砕こうとする。上谷はひめかの猛攻を受け切った上で勝利。気持ちのこもった勝利でのV9は、KAIRIの防衛回数を超えるものだった。
「挑戦者としっかり向き合って、黄金世代同士で持ってるものを出し尽くす試合ができたと思います」
上谷「孤独だなとも感じました」
チャンピオンとしての日々を語ってくれたのは、両国国技館ならではの畳敷きの控室だった。ちょこん、という感じで座り淡々と話す上谷だが、その言葉は重かった。修羅場をくぐった人間だからこその言葉だ。
「チャンピオンロード、いろんなことがありすぎましたね。ベルトを獲るまでも大変でしたけど、チャンピオンになってからがさらに大変で。やっぱりいろんな人の視線が私に向いてくるし、気持ちもそう。“お前からベルトを奪ってやる”という気持ちが常に私に向けられているので。孤独だなとも感じましたし、ファンの人たちに背中を押してもらいながらなんとか防衛してきた感じです」