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「落ちたら死ぬ可能性が高い」国内最難ルートを登ったクライマーが心臓病で死にかけて考えた「クライミングなしで70歳まで生きて、幸せか?」
text by
寺倉力Chikara Terakura
photograph byMiki Fukano
posted2022/12/31 17:11
プロクライマー倉上慶大。国内の最難ルートを次々に完登するなど、世界のクライミングメディアから注目される。2021年10月に心肺停止を経験、そこから復帰した
倉上 狭心症で倒れてから確信したんですが、なぜこんなにもクライミングに惹かれるのかといえば、心が「ときめく」から。ときめく対象として岩があり、クライミングがある。
――やはり、達成感を得ることは大きなモチベーションになりますか。
倉上 僕は違います。達成感にはあまり惹かれません。取り組んでいた自分のプロジェクトをやり遂げたとします。でも、その瞬間は達成感よりも喪失感のほうが大きい。今まで困難な目標と向き合っていた楽しい時間が、もうこれで終わってしまうという喪失感です。僕にとってはプロジェクトに挑戦していないと、生活のメリハリがないんですよ。なんでしょうね、結果ではなくプロセスが楽しいんでしょうね。
だから難しい岩や、困難なルートを前にしたときにこそ、ときめくんじゃないかなと思います。今回の心臓病と向き合うこともクライミングも、僕のなかではまったく一緒なんです。プロセスも、そこに求めるものも同じ。これまでの人生のなかで、充実感を得られたものはなんですかと問われたら、今のところ、クライミングと心臓病は確実にベスト3に入ります。
<続く>