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『プロ野球戦力外通告』でよく見る社会人野球のオファー「やっぱり、元プロが入ると周りの選手が喜びます」社会人チームのスカウト事情を聞いた
text by
鼠入昌史Masashi Soiri
photograph byKYODO
posted2022/12/28 11:22
今年、4年ぶりに都市対抗野球に出場したJR西日本野球部。元プロ野球選手もスカウトしている
それはさておき、田村監督は「監督の仕事の中でかなり多くを占めているのが新人選手の獲得」と話す。チームの練習や試合で指揮を取る傍ら、高校生や大学生の試合を視察し、指導者とコミュニケーションを取りながら選手獲得への道筋をつけていく。狙うのはもちろん強豪校で活躍してきた選手たち。ただ、名前の知られた彼らはプロ球団や他の社会人チームも目をつけている。
「最近はプロに行きたいという学生がすごく多いので、難しくなっているところはありますね。最初からJR西日本に行きたいと思ってくれればありがたいんですけど、現実的にはまずは選択肢のひとつに入れてもらうことから。ウチを選んでもらうためには、やっぱり結果を出していくことが大事ですよね。強いチームに声をかけてもらえると選手もうれしいでしょうから」
“野球バカ”から会社員になるという意識
そうした中で、選手獲得の武器になっているのが“安定”だという。野球を引退した後も、会社で仕事を続けることになる。それは裏を返せば、生活面での不安を感じずに野球に打ち込めるということだ。こうした点もアピールしつつ、有力選手のスカウティングに監督自ら励んでいるというわけだ。
「ただ、仕事をしながら野球もするわけですから、その視点でもみないといけない。会社の中の野球部で、会社から給料をもらって野球をやっている。だから、会社の一員という意識は野球部以前に持っていなければいけない。選手獲得もそうですし、入ってからもそれを理解してもらうことがいちばん大事だと思っています」
強豪校で野球をしてきた選手たちは、まさに文字通りの“野球バカ”。設備面も含めて恵まれた環境でひたすら野球だけをしてきた選手ばかりだ。それが、社会人野球に進むと一変する。午前中は自らの職場で一般社員とともに仕事に励み、午後に練習に向かうという生活になる。それに順応できるかどうかは、野球の技術面以上に重要なのだ。
「チームの基本理念として、“愛されるチーム”“勝てるチーム”の両方を掲げています。強いだけで誰にも応援してもらえなくても意味がないし、応援してもらっても勝てなければダメ。その両輪がうまく回るようなチームを作っていきたい。そのためには、できるできないは別にして、仕事の部分で一生懸命取り組む姿勢を見せること。仕事がいい加減だったら、そいつのために応援に行こうなんて思ってくれないですからね」
じつは相当恵まれている環境
仕事に対する姿勢が甘くなると、野球にもそれが表れてくるという。内野ゴロでも一塁に全力疾走をするのか、平凡なプレーでもきちんとバックアップに入るのか。そうした細かいところは、仕事への姿勢と共通するところがあるのだ。