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フランス×イングランドは「究極の矛」対「究極の弓」…対エムバペのダブルチームは発動されるのか?
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byGetty Images
posted2022/12/08 13:30
決勝トーナメント1回戦でも、エムバペは爆発的なスピードでポーランドの守備陣を何度も切り裂いた
日本的な表現をすれば「止める・蹴る」が極めて精密で、ボールを止めてから蹴るまでの動きに無駄がなく、プレースピードが極めて速い。ポーランド戦の後半46分、マルクス・テュラムからのマイナスのパスをペナルティエリア内やや左で受けると、素早く右足を振り抜いてファーポスト側にシュート。名手GKボイチェフ・シュチェスニーの右手を吹き飛ばしてだめ押し点を決めた。
跳躍力にも優れており、クロスに合わせるのも得意だ。オーストラリア戦ではヘディングで、デンマーク戦では宙に飛んで右足に当ててゴールを決めた。攻撃者としてすべての能力を兼ね備えており、まさに「超人」である。
ここまでエムバペに焦点を当ててきたが、当然ながらフランスには他にも突出した選手がたくさんいる。アントワン・グリーズマンはアイデア溢れるパスで攻撃にリズムをつくることができ、オリビエ・ジルーは前線でしっかりとターゲットになれる。今季レアル・マドリーへ飛躍したオーレリアン・チュアメニも中盤の底で存在感を放っている。フランスは今大会の出場国の中で最も隙がないチームと言えるだろう。
3人が選手が弓のごとく攻めるイングランド
しかし、イングランドの攻撃力も負けてはいない。
その中心を担うのがセンターFWのハリー・ケイン、セントラルMFのジュード・ベリンガムとジョーダン・ヘンダーソンの3人だ。
ケインは188cmと身長こそ大型だが、プレースタイルは「偽9番」である。センターFWの位置から左右や後方に自由に動き、縦パスを引き出してそこからパスを展開する。
故ヨハン・クライフが好んだタイプの動きで、かつてクライフ自身がオランダ代表でそれを体現していた。現代サッカーでは守備戦術の進化によって中央のスペースが消され、ゲームメーカータイプが生きづらくなっている。だが、そんな時代において、ケインはクラブでも代表でも輝きを放ち続けている。前回大会の得点王にはやや似合わないかもしれないが、「現代版ファンタジスタ」と言えるかもしれない。
今大会、そのケインの動きによって引き出されているのが、ベリンガムとヘンダーソンの前方への飛び出しだ。
イングランドは初戦のイラン戦ではメイソン・マウントをトップ下に置く4−2−3−1を採用し、ダブルボランチにはベリンガムとデクラン・ライスのコンビを起用した。それによってイランを圧倒し、6対2の完勝を収めた。