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「天使と悪魔が戦ってて…」世界女王・坂本花織22歳が五輪メダル後のシーズンで抱える葛藤「今季あらゆる場面で、悪魔が言うんです」
text by
野口美惠Yoshie Noguchi
photograph byAsami Enomoto
posted2022/11/24 11:00
NHK杯で銀メダルを獲得し、GPファイナル進出を決めた坂本花織
「天使と悪魔が戦ってて…」
「今季、あらゆる場面で、悪魔が言うんです。『去年頑張ったし、いいやん』『もう今シーズンしんどいの、やらんとこうよ~』って。そのたびに『ああまた考えてるな』と思う。『頑張らないと』という天使と、『頑張り疲れた』という悪魔が戦ってて。先生にはこの事を言ってないけど、たぶん練習に出てると思います」
五輪後の4月に大学4年生となり、「4年で卒業したい」という目標を立てた。7、8月はレポートなどの課題に追われ、練習量が減ることも。後期が始まってからは、朝7時半から9時まで練習し、昼間は大学、夕方から夜までスケート。それを月~金まで毎日だ。
「スケートに影響しないように、と中野先生とは約束していて、学業とスケートをなんとか両立させようと朝から晩まで頑張っているつもりです」
ジャンプの調子を戻せないままNHK杯へ
GP初戦となる10月のスケートアメリカは、217.61点で優勝。スロースターターの坂本としては悪くない内容だった。しかし帰国直後、39度の熱を出してしまった。
「風邪でまるまる1週間休んだので、筋力も落ちてしまい、練習で追い込めなくなっていました。スケートアメリカで上げていた調子が、マイナスになってしまい満身創痍、ズタボロという感じでした」
筋力が落ちると、得意のスピードも出ない。「スピードがないと跳べないタイプ」である坂本は、そこからジャンプの調子を戻せないまま、NHK杯を迎えた。
ショートは、冒頭のダブルアクセルこそ決めたものの、3回転ルッツと連続ジャンプで、着氷が乱れてしまった。得点は68.07点で、3季ぶりに60点台にとどまり、2位発進。開口一番こう言った。
「これが現状です」
そして、続ける。
「全体的にスピード感がなくて、ジャンプも普通の勢いでした。朝からタイミングが合っていませんでしたし、妥当な点数です」
その夜、坂本は『このままだと表彰台落ちるぞ~』と何度も自分に言い聞かせ、悪魔を振り払った。迎えたフリーの本番、滑り出した坂本はこう感じた。