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「天使と悪魔が戦ってて…」世界女王・坂本花織22歳が五輪メダル後のシーズンで抱える葛藤「今季あらゆる場面で、悪魔が言うんです」
text by
野口美惠Yoshie Noguchi
photograph byAsami Enomoto
posted2022/11/24 11:00
NHK杯で銀メダルを獲得し、GPファイナル進出を決めた坂本花織
「遅いな~。いつも感じてる風が、感じられへん」
無意識のうちにスピードを落としている自分に気づいた。しかし今の体力でスピードを出すと、後半が持たないことも分かっていた。
「今できることを、まずはやらんと」
演技後、思わず頭を抱えるも、得点を見て…
ファイナル進出を考えると、無謀に前半でスピードを出すことは出来ない。坂本らしい爽快な滑りをあえてやめて、致命的なミスなくまとめることに徹した。ルッツはエッジに「エラー注意」の「!」がつき、3回転+3回転の着氷はやや乱れ、最後のループが1回転に。演技後は思わず頭を抱えたが、得点を見て、自分を納得させた。フリーは133.80点で首位ながら、総合201.87点での2位だった。
「ルッツはいつも通り。3−3も含め、まあ、今できることは出来たかなと思います。200点前後というのは、自己ベストから30点以上下がっているので悔しいです。でも去年の自分にはまだ程遠いから、これくらいの点数差でも当然かな」
GPファイナル進出を確定させ、改めて、ここまでの戦いを振り返る。
「やっぱり試合は楽しくやりたいので、日頃の練習が苦しくても、その苦しさを押し殺さないといけないと感じました。今は悪魔のほうが多いです。でも葛藤中なので、なんとか悪魔をやっつけたいです。今回の結果で、エンジンがかかりそうな予感がしているので、ファイナルまで死にものぐるいで頑張りたいです」
そして、試合後のご褒美は「焼き肉!」と即答する。中野コーチが「身体も絞って頑張らせたい」と吐露していたことを聞くと、「頑張るためのエネルギーですから!」。そう言って、いつもの坂本らしい笑顔を見せた。
NHK杯初出場の2人が大技に挑戦
一方、NHK杯初出場となる日本女子2人にとっては、それぞれの大技に夢を乗せる一戦となった。今季からシニアの住吉りをん(19)は4回転トウループに挑戦中で、スケートカナダで優勝した渡辺倫果(20)はトリプルアクセルを武器とする。
住吉は、GP初戦のフランス杯で3位と健闘。ノービス時代にエキシビションに出た思い出のあるNHK杯を楽しみにしていた。ショートではすべてのジャンプを着氷し、右手で小さくガッツポーズ。自己ベストの68.01点で3位発進となった。
「今季ずっとショートで思うような演技ができていなかったので『やっと出来た!』という思いです。フランス杯で楽しんで演技することで結果がついてきて、それが自信になりました。『結果を求めるんじゃなくて、試合を楽しもう』と気持ちを上げてきました」
フリーで組み込んでいる4回転トウループは、普段の練習では7割の成功率。フランス杯では、転倒するも回転は認定され、今季のGPシリーズで女子唯一の4回転ジャンパーとしての足跡を残していた。