濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「燃え尽きるさまを見てほしい」米AEWで活躍、日本でも2冠の志田光が「日本の女子プロレスが世界最高」と語る理由
posted2022/10/14 17:03
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
Norihiro Hashimoto
女子プロレスラーの志田光は現在、プロレスリングWAVEのシングル王座とアイスリボンのタッグ王座を保持している。2団体2冠は快挙と言っていい。それだけ幅広く、レベルの高い闘いを見せているのだ。
しかし所属しているのは、WAVEでもアイスリボンでもなくアメリカのメジャー団体AEW。志田は日本でタイトルを奪取し、ベルトをアメリカに持ち帰った。
「日本とアメリカ、どちらも私の主戦場です。他の選手がしていないことをやりたい。私にしかできないことがやりたい」
役者志望から、AEW女子王者に
その経歴は、最初から異色だった。プロレスラーとしてデビューしたのは2008年のこと。アイスリボンのリングだった。もともと役者志望で、プロレスを題材にした映画『スリーカウント』のオーディションを受ける。ただ出演には条件があった。実際にプロレスのリングで試合をすることだ。
志田は主役の座を射止め、同時にレスラーとなる。この『スリーカウント』は藤本つかさ、松本都も輩出している。映画が公開されてからも、3人はプロレスを継続。松本都は自主興行で独自の個性を発揮し、現在『フリースタイルティーチャー』でラップにも挑戦。藤本は選手兼取締役選手代表としてアイスリボンを支えている。志田は団体トップ選手となったが2014年に退団し、フリーに。2019年にAEWと契約、渡米した。
アメリカでの活動は、コロナ禍を抜きには語れない。AEW女子王座を獲得したのは2020年の5月。無観客大会でのことだった。それから1年にわたってベルトを守り、王座陥落は「有観客」再開のPPVビッグマッチ。
アメリカでの試合、なおかつ無観客。チャンピオンとしての闘いはすべてが手探りだった。会場だけでなくテレビ、YouTubeでの中継も重要だから、日本以上に「カメラを意識すること、画面に映る人として美しく、カッコよくあること」を学んだ。と同時に、AEW女子部門のスタートに尽力、日本の選手を大量に招聘したケニー・オメガ(団体副社長でもある)からはこう言われた。
「日本の女子プロレスをそのままやってほしい。それだけで強烈な個性になるから」
「“志田といえばこれ”という技をできる限り見せたい」
その言葉通りにやってきたつもりだった。手応えをはっきり掴んだのは、ベルトを落とした試合だ。リングを降り、引き上げていくと「Thank you,SHIDA!」のコールが起こった。1年間、女子部門を支え、引っ張ってきたことをファンが認めてくれたのだ。
「無観客で悪戦苦闘して、プレッシャーも凄くて。でも自分がやってきたことはカメラの向こうにちゃんと届いてたんだなって。それですべて報われました」