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甲子園の風BACK NUMBER
《延長17回秘話》PL学園4番が悔やむ横浜・松坂大輔を仕留め損ねた1球「唯一ホームランにできたボールだった…」「今でも夢に出てきます」
text by
内田勝治Katsuharu Uchida
photograph byJIJI PRESS
posted2022/10/04 11:03
センバツ準決勝では松坂から先制タイムリーを放ったPLの4番・古畑和彦。しかしバッターボックスでは松坂のボールに恐れを感じていた
サヨナラが狙える場面で、次打者の5番・大西宏明はバントの構え。1ボールとなった後、大西から「和彦、(ピックオフプレーが)あるぞ!」と大声で指示された。河野有道監督からも、一塁ベンチから注意を促された。
「ピックオフ、僕もあるのはもちろん承知していたんです。ファーストのごっちゃん(後藤武敏)がめっちゃ前に突っ込んでいて、セカンドの松本が自分の後ろにいたことも分かっていました」
2球目、大西がバットを引いて見逃したスライダーはストライクゾーンを通過した。その刹那、古畑は、第2リードからもう一歩、スタートを切ってしまっていた。
「大西がバットを引く瞬間がごっちゃんと重なって一歩多く出てしまい、見えたときには小山が一塁に投げようとしていて…。言い訳ですが(笑)」
捕手の小山良男から一塁のベースカバーに入った松本へとボールが渡り、一、二塁間の挟殺プレーでタッチアウト。結局この回3人で攻撃は終わり、ここから底の知れない延長戦へと突入することになる。
あの松坂が、一塁塁上で両膝に手をつきながら、息をしている
「2019年かな。PLの仲間と集まった時に初めて『この9回のプレーってどうなん?』って僕から聞きました。ストライクゾーンやったらバントやるって思って(二塁の方へ)出るじゃないですか。そうやないと松坂に刺されるよ! って。バントって分かってからスタートして二塁で刺される方が嫌じゃないですか。まあ、この走塁は皆からは和彦が悪いと言われましたけど(笑)」
松坂は投球だけではなく、フィールディングも当時から超一流だった。プロではゴールデン・グラブ賞を7度も受賞している。欠点のないエースに対し、走者としてあと1メートル、10センチ、1センチでもアドバンテージを稼ぎたくなるのは当然の心理だろう。
さらに打っては4番打者だ。延長11回、強烈なゴロはイレギュラーし、古畑の顔面付近を通過、そのままレフト前へと抜けた。守備でも打席でも走者でも、松坂大輔の「圧」を常に感じ続けていた。
その松坂が、一塁塁上で両膝に手をつきながら、肩でハアハアと息をしている。すでに試合開始の8時30分から2時間以上が経過。気温も上昇し、グラウンドにいるだけで体力を消耗した。
「しんどいんやろうな……」
怪物とて、同じ高校生。古畑は、いつ終わるかも分からない試合の中で、腕を振り続けるライバルのことを思いやった。
<後編へ続く>
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