「捉えた」。その感触はあった。何せ、バットの真芯に当たったのだ。「真芯の打ち損じ」と表現した打球は、高々と舞い、左翼手・堀雄太のグラブに収まった。6.8秒。長距離打者にふさわしい滞空時間の長い放物線は、レフトスタンドのはるか手前で途切れた。あの夏、松坂と相対した全28球の中で「唯一ホームランにできたボールでした」と振り返る。

「（ボールがバットの）真芯に乗ってこすりました。それは松坂の球威に押されているからです。夢の中ではホームランを打っていて、でも『今、何歳なん？えっ？』って考えているうちに目が覚める。直球張り張りの中で打ちにいって、球自体は弱かったからホームランにできたんちゃうかなって…」

PL学園戦の松坂　©Hideki Sugiyama

　あの試合、自分が関わったプレーで「記憶から排除されていた」シーンもある。その次の回の5回表。先頭の7番・斉藤清憲のゴロを後逸した場面だ（記録は二塁打）。映像で確認した後「これは止められる打球ですね」と苦笑した。4回の凡退は、少なからず守備にも影響していた。

再び三塁線に飛んできた打球

　くしくもこの守備が、センバツの悪送球のリベンジへとつながる。2点差を同点とされ、なおも1死三塁。2番・加藤重之のゴロが、あの試合と同じように古畑の前へと飛んできた。三塁走者の松本勉は、一塁寄りに構える捕手の石橋めがけて走り出している。

　対策は「一塁寄りに構える石橋のミットより、さらに一塁側に投げること」。だが、投げたボールは、外側へいった。

　真相はこうだ。

「あれは外側を狙ったと思われているんですが、誤解がありまして。完全にすっぽ抜けなんですよ。ハーフバウンドで捕ってそのまま投げたんで、ちゃんとボールを握れずに抜けてしまったんです。内側を狙ったのが外側にいって、『またランナーに当たるんじゃないか』って感じで祈りながら見ていて、アウトになった瞬間に『うわぁ、よかった』って。ホッとしたところがVTRに残っています」

「結果オーライ」と話した本塁タッチアウト。何とか同点で踏みとどまることができた。4回のレフトフライも、この本塁送球も、どちらかがあと少しでもずれていれば、この試合はセンバツと同じく9回で終わっていたかもしれない。

古畑が「一番悔やまれる」と話した、あるプレー

　そして古畑が「一番悔やまれる」と話したプレーは、守備でも、打撃でもない。9回裏だ。先頭で迎え、フルカウントから、松坂のこの日最速となる148キロ直球を見逃し、四球で一塁へと歩いた。

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