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〈現役引退〉福留孝介が今も忘れられない王貞治監督の一言とは 第1回WBCで世界一に導く劇的2ラン 

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小西斗真

小西斗真Toma Konishi

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photograph byNaoya Sanuki

posted2022/09/16 11:03

〈現役引退〉福留孝介が今も忘れられない王貞治監督の一言とは 第1回WBCで世界一に導く劇的2ラン<Number Web> photograph by Naoya Sanuki

第1回WBC、韓国との準決勝で劇的な2ランホームランを放った福留孝介

 イチローの先頭打者ホームランで始まった米国との一戦は、同点のまま8回を迎えていた。一死満塁と攻め立て、岩村明憲がレフトにフライを打ち、西岡剛がタッチアップで本塁をねらった。勝ち越し点。デレク・ジーターが「離塁が早かった」とアピールしたが、二塁塁審はセーフとジャッジした。しかしボブ・デービッドソン球審が「アウト」とコール。現在ならチャレンジで簡単に片付くような明らかな誤審だったが、当時は王監督の抗議もはねつけられた。

 幻の勝ち越し点。9回サヨナラ負け。東京に続き、アナハイムでも再び韓国に屈し、1勝2敗で第2ラウンドを終えた。セミファイナル進出は絶望的な状況だったが、すでに敗退が決まっていたメキシコが米国を破る金星を挙げ、韓国以外の3チームが1勝2敗で並んだ。大会規定による失点率、わずか0・01差で日本は生き返った。

「孝介は孝介であれば」PL先輩の言葉に…… 

 舞台をサンディエゴに移しての韓国とのセミファイナルは、緊迫した投手戦になった。上原浩治が踏ん張るが、打線も韓国先発の徐在応を打ち崩せない。福留はこの試合、ベンチスタートだった。東京、アナハイムでの6試合で19打数2安打。しかし、王監督は先発を外れることを告げる時、こんな言い方をしている。

「必ず大事な場面で行くからな」

 悩んだり、ふさぎ込んだりしている場所ではない。福留も「大事な場面」を待った。心が少し軽くなったのは、代表チームの精神的支柱であり、PL学園の先輩でもある宮本慎也の言葉だった。

「孝介は孝介であればいいんや」

 実は福留は松井秀喜の選出辞退により、追加招集されていた。宮本も同じだった。初めての大会。今のように早くから監督が決まり、視察と会議を重ねて選んでいたわけではない。選ぶ方も選ばれる方も手探りゆえに「辞退」と「代役」はそれぞれの立場に苦しんだ。しかし松井ではない。福留は福留。先輩の助言にはそんな意味が含まれていた。

「大事な場面」は7回一死二塁。これまたPL学園の後輩・今江敏晃の代打だった。王監督は下手投げの金炳賢に左の切り札をぶつけると決めていた。

「先頭の松中(信彦)さんが二塁にヘッドスライディングで出たでしょ? あれでベンチの雰囲気は一気に高まった。あれを見て何も感じない人間はいませんよ」

【次ページ】 王さんを世界一の監督に! 絆が生んだ劇的2ラン

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