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大坂なおみに敗れグランドスラム2度のV逸…史上最多優勝に「1」届かず“引退”表明の40歳・女王セリーナが4年前に言い放った「わたしは犠牲になるかもしれない」
text by
内田暁Akatsuki Uchida
photograph byHiromasa Mano
posted2022/08/31 17:00
今月、競技から事実上の引退を表明したセリーナ。全米の観客は女王の迫りくる終止符に熱視線を送っている
若き実力者が迫った女王交代劇
自身の姿を子どもの頃から追い続け、ゆえにプレーの相似性も高い大坂は、時速200キロに迫る高速サーブで、セリーナをコートに釘付けにする。ストローク戦では打ち合うごとに、大坂が力で押し込んだ。
試合開始から、1時間15分。起死回生の一撃に悲壮な希望を込めて強打するも、叫び声とは裏腹に、セリーナのボールは伸びずネットを叩く。最終スコアは、3-6、4-6。大坂なおみの完勝だった。
万雷の拍手を浴びながら、23度のグランドスラム優勝者は、毅然と手を振り、掌を胸に当ててコートを後にした。
その約1時間後。涙の痕を隠しもせず会見室に現れたセリーナは、「コートを去る際のジェスチャーは、ファンへの最後の別れの挨拶か?」と問われると、「もし別れだとしても、誰にも言うことはないわ」とぎこちなく笑う。
堪えきれない涙「もうおしまい」
続く質問に応じようとした時、こみ上げる涙を押し止めることができず、「もうおしまい」と席を立ち、走るように去っていった。
後に残された面々は、気まずさと罪悪感を共有しながら、今見たレジェンドの言葉や行為が意味するところを、各々が咀嚼する。
個人的なことで言えば、このとき胸裏によみがえったのは、そのさらに2年半前のニューヨークの会見室で見た彼女であり、彼女が去った後に共有した居心地の悪さだった。
2018年9月――。このときの全米オープン女子決勝戦のカードもまた、セリーナ・ウィリアムズと大坂なおみだった。
この年の3月、産休から本格復帰したセリーナは、大方の予想を覆し7月上旬のウィンブルドンで決勝に進出。変わらぬ力を世に示す。そして母国で迎える全米オープンでは、往時を想起させるパワフルなプレーで、決勝まで勝ち上がった。