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大坂なおみに敗れグランドスラム2度のV逸…史上最多優勝に「1」届かず“引退”表明の40歳・女王セリーナが4年前に言い放った「わたしは犠牲になるかもしれない」
text by
内田暁Akatsuki Uchida
photograph byHiromasa Mano
posted2022/08/31 17:00
今月、競技から事実上の引退を表明したセリーナ。全米の観客は女王の迫りくる終止符に熱視線を送っている
わたしは犠牲になるかもしれない
主審への暴言を質す問いにも、「男子選手がもっとひどいことを主審に言い、それでもペナルティを取られぬ場面を何度も見てきた」と反駁した。
「私は、女性の権利と平等のために戦うべく、ここに居る。私が戦うのは、次の世代のためでもある。自分の感情を表に出し、強くありたいと願う女性のためである。わたしは犠牲になるかもしれない。でも今日の活動が、未来の女性を助けると信じている!」
そう言い放つとセリーナは、自分の役目は終えたとばかりに、すっと席を立ち去った。
これらの言葉は会見室では、論点のすり替えとして、いささか空虚に響く。だが世間へと放たれた時、同情や誤解をもからめとりながら、セリーナを支援する巨大な世論を形成した。米国のメディアや海千山千の記者たちですら、その機運を覆すことはできない。
声を大にして批判するには、セリーナは、あまりに大きな存在だったのだ。
セリーナを脅かす大坂の影
それから、2年半後、2021年全豪オープンのセリーナと大坂の再戦は結果こそ同じだったものの、その後に女王が見せた涙は、月日がもたらす無慈悲な差異を浮き彫りにした。
自身の背を追い続ける大坂は、セリーナの威光が生み出した、彼女を脅かす影だ。
2019年のセリーナは、ウィンブルドンと全米オープンで決勝に勝ち上がるも、どうしても頂点への最後の一段を上り切ることができなかった。
2020年の全米オープンでは、優勝への渇望を露わに戦うも、準決勝でビクトリア・アザレンカに敗れている。ちなみにこの大会の決勝で、アザレンカを破り頂点に立ったのは、大坂だった。