「今年はグラウンドに監督がいる」

　聖光学院の歴代キャプテンで、そんな評価を受けたのは赤堀が初めてだった。

©Hideki Sugiyama

夏の大会前、赤堀が流した涙の理由

　選手から頼られ、指導者たちからも全幅の信頼を寄せられる。それが故に「俺がやらないとダメだ」と責任感が日に日に増す。そして、いつしか孤独に苛まれる。

　夏の大会直前。赤堀の顔が冴えない。斎藤から「どうした？」と尋ねられると、「いや……ちょっと、独りになりたくて」と呟く。

　赤堀は斎藤の言葉に琴線を揺さぶられる。

「夏の大会が怖くなったか？」
「それもあるんですけど……」
「そうか。大好きな仲間と一緒に野球ができなくなるって考えると、苦しくなんだな」

　鼻をすする音が強くなる。はい……はい……赤堀の声に涙がにじむ。

　決して人に弱みを見せず、独りもがき苦しむ。そんなキャプテンの姿を監督がミーティングで訴えかける。

「本気で命を懸けられる。このチームにはそんな男がいるよな」

　仲間たちが共鳴する。

　そうだ。俺たちには赤堀がいる。でも、赤堀にも俺たちがいるってことを伝えないと。

　同じ関西から聖光学院の門を叩いて以来の親友、伊藤遥喜がキャプテンの背中を叩く。

「そんなプレッシャーを味わえるってすごいよ。赤堀が乗り越えるために用意されたものなんだろうけど、一緒に乗り越えようぜ！」

　赤堀の想いが解放される。

　俺はひとりじゃないと、涙を拭う。

「自分はいろんなことを深く考えてしまうところがあって。夏の大会に入る前とかも、負けることのプレッシャーだったり、仲間への想いだったり、考えるだけですごく苦しかったんですけど、みんなのおかげで抜け出すことができました」

夏の福島大会優勝時　©Genki Taguchi

夏が終わった瞬間、一塁ランナー・赤堀は…

　福島を制し、甲子園では日大三、横浜、敦賀気比ら全国制覇を経験している強豪がひしめく「死のブロック」に参入しても、「相手がどこだろうと勝ち上がるだけ」と、迷いなき日本一への強固な意志を誰もが打ち出した。

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