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欧州サッカーPRESSBACK NUMBER
4カ国で予選突破、うち3カ国でW杯前に解任…なぜハリルホジッチは“モロッコ国民の敵”になったのか「たとえ名前が“メッシ”でも呼ばない」
text by
長束恭行Yasuyuki Nagatsuka
photograph byGetty Images
posted2022/08/23 17:00
8月11日、モロッコ代表監督の職を追われたヴァイッド・ハリルホジッチ監督。“W杯前の解任劇”はなぜ繰り返されたのか
さらにアシスタントコーチとして板挟み状態のムスタファ・ハッジを、ハリルホジッチは意見の食い違いを理由にサッカー連盟に頼んで解任。さらに公で「表裏ある人物」との批判を浴びせたため、ハッジからは名誉毀損で訴えられた。1998年度のアフリカ最優秀選手にも選ばれた同国サッカー界のレジェンドは、母国のテレビインタビューでこうこぼす。
「私がヴァイッドの立場ならば、問題解決のために選手の元を訪ねるだろう。ジエシュやマズラウィらは真のモロッコ人であり、彼らは自分の国を愛している。代表チームにはモロッコ人監督が必要だ。国のために死ぬことができるのは真のモロッコ人だけだ」
代表戦で強烈なブーイングを浴び、SNS上でも…
3月のアフリカ最終予選でコンゴ民主共和国に勝利し、モロッコはカタールW杯出場権を獲得。ピッチ上でハリルホジッチは国王直々に祝電を受けるも、逆風は強まるばかりだった。サッカー連盟のフージー・レクジャア会長は追放組との関係修復を彼に迫り、6月の代表戦ではマズラウィやアリ、ターラブをチームに復帰させた。
しかし、ジエシュと歩み寄ることは一切なく、ラバト開催のアフリカ・ネーションズカップ予選「モロッコ対南アフリカ」ではハリルホジッチに対して強烈なブーイングが浴びせられる。SNS上では「#Vahidout」のタグがついた批判投稿が氾濫し、母国の大スターをカタールW杯に連れて行かない「ペルソナ・ノン・グラータ」(好ましからぬ人物)としてモロッコ国民に忌み嫌われた。
「私のほうからモロッコを去ることはできるな、ははは」――3月末の時点ではそんな冗談をクロアチア人記者に言えたハリルホジッチだったが、スターシステムの罠にはまって四面楚歌に陥った。カタールW杯のグループステージ初戦の相手は、一から十までチーム事情を知っているクロアチアにもかかわらず。
「W杯出場を決めた後からすべてが始まった。あの頃はメディアで取り上げるテーマがあまりなく、私の解任論が世の中を支配するようになったんだ。『こいつをプレーさせろ』『あいつをプレーさせろ』なんて議論が始まったが、私はそんな命令を誰かに受ける人間じゃない。頑として態度は貫き通した。私が作り上げたものすべてが優れていることを証明してきたし、私が選択したすべての判断が結果をもたらしたわけだから」
ハリルホジッチが「アトラスのライオン」(モロッコ代表の愛称)を3年間率いた戦績は20勝7分3敗。しかし、これらの数字は評価されることなく、サッカー連盟は「カタールW杯に向けた最終準備において、レクジャア会長とハリルホジッチの間で埋めがたい意見の相違があった」として友好的に別れることを発表した。<後編へ続く>