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「正直、勝たなくていいと思ってました」PL学園のKKに憧れたライバル投手が明かす33年越しの本音「こいつからは逃げたくないって…」
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byMasanori Tagami
posted2022/08/21 17:25
1985年春の選抜で対戦し握手する宇部商・田上昌徳(左)とPL学園・清原和博
グラウンドで真剣勝負した相手には、所属や、立場など関係なく腹を割って向き合う。
その姿が打席のイメージと重なった。男同士が絆を結ぶのに、時間も、言葉も、多くは必要なかった。
あっという間に別れの時刻がきた。バスまで見送りにきた清原に、田上は言った。
「俺の目標はお前らなんよ。夏にもう1回、やろうな――」
「田上と心中するって言ったじゃないですか!」
夏の甲子園、田上はその約束のためだけに腕を振ったと言っても過言ではなかった。1回戦から先発した。2回戦は完封だった。一戦ごとに抽選で次の対戦相手が決まるが、なぜか、なかなか、待ち望むPLとは当たらなかった。そのうち、田上のピッチングに陰りが出てきた。
準々決勝の鹿児島商工戦、エースは初回に3点を失って降板した。その後、打線が逆転してくれたため、何とか勝ったが、田上の調子が下降線であることは明らかだった。
その夜、宿舎では監督の玉国と、コーチが口論になっていた。
「何言っているんだ! あんた、田上と心中するって言ったじゃないですか!」
怒号が響いた。もう、田上を投げさせない方がいいのではないか、と考えた玉国に対し、コーチは、ここまでチームを導いてきたエースで負けるなら本望だと考えるチームの声を代弁したのだ。
指揮官からの信頼が薄らいできていることは田上自身も感じていた。自分の体が思うように動いていないことも自覚していた。それでも、清原まで何とかたどり着きたい。その一心だった。
結局、田上は準決勝・東海大甲府戦も先発マウンドに立つことになった。ただ、すがるような思いとは裏腹に、白球は言うことを聞いてくれなかった。3回途中、4失点でKOされた。降板したエースはベンチに戻ると、そのまま号泣した。
<つづく>