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「ちゃんとやってよ」イチローが甲子園優勝校・智辯和歌山に託した言葉「メーッチャメチャ、響きましたね!」《甲子園優勝校を生んだ伝説のひと言》 

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石田雄太

石田雄太Yuta Ishida

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photograph byHideki Sugiyama

posted2022/08/12 17:01

「ちゃんとやってよ」イチローが甲子園優勝校・智辯和歌山に託した言葉「メーッチャメチャ、響きましたね!」《甲子園優勝校を生んだ伝説のひと言》<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

2021年夏の甲子園で優勝した智辯和歌山ナイン

「監督からは『お前ら、こんなんじゃ、勝たれへん』って叱られて……僕ら、監督に一番、叱られた代だと思うんです。だからいい意味で監督の期待を裏切ろうやって」

「イチローさんの言葉をもう一度、考えてみよう」

 叱り続けた中谷監督も葛藤していた。そこで頼ったのがイチローの言葉だった。

「イチローさんの『ずっと見てるから、ちゃんとやってよ』というあの言葉をもう一度、みんなで考えてみようと、ミーティングをしたんです。まず『ずっと見てる、というのは誰が見てくれていると思うか』と子どもたちに問い掛けました。『イチローさんか? 違うよな。イチローさんは忙しくてお前らのことなんかずっと見てられへんよ(笑)。じゃあ、誰よりも自分のことを見てるのは誰だ? ちゃんとやってよ、という言葉を伝えなきゃいけないのは誰だ?』『自分がやってきたこと、やっていることを一番見てるのは、自分自身だろ』……そう話すと、子どもたち、ああ、そうか、なるほどって顔をしていましたね」

 この「自分自身」という中谷監督の言葉に誰よりも反応したのは大仲だ。

「メーッチャメチャ、響きましたね。やっぱりそうだよなって、改めて確認できました。僕はイチローさんからもらった『ちゃんとやってよ』の言葉をプリントしたTシャツを着るたびに、あの3日間のことを思い出します。僕はいつも『全部が自分次第で変わるんだ』と信じてやってきました。迷いの心が芽生えたとき、どっちが楽でどっちがしんどいのか自分に問い掛けて、“ちゃんとやってよ”という言葉を思い出しながらしんどいほうを選んできたんです」

頭の中で100回以上、イメージしてきたプレー

 チームとしてこだわり、再三にわたって練習を重ねてきたイチロー直伝、二塁への駆け抜けも、最後まで思うようにハマらなかった。たとえばそのシチュエーションを作ってノックを打っても、二塁への駆け抜けがセーフにならないのだ。宮坂が言う。

「とにかく実戦では駆け抜けるところに達するプレーさえなかったので難しかったんですけど、でもチーム全員、その状況になれば、あのプレーは必ずやると確認し続けてきました。駆け抜けるチャンスはなかったけど、試合だけじゃなくてシートバッティングでもランナーつきのノックでも、二塁駆け抜けを狙える状況はいくらでもありました。そのたびに、ランナーコーチとランナーとの間で『あのプレー(駆け抜け)あるよ』と確認し続けてきたんです。だから実戦で駆け抜けるプレーはあのときまでに一度もなかったけど、頭の中では100回以上、イメージしてきたプレーでした」

 バッターの大仲も同じことを言った。

【次ページ】 イチローさんのアレがでるか?って思ったら…

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