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「自分の中に燃料は十分残っている」F1参戦16年目で“300戦クラブ”入りした、ハミルトンが挑む不吉なジンクスとは
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byGetty Images
posted2022/07/29 11:00
記念すべき300戦目のレースとなったフランスGPで、ハミルトンは今季最高位となる2位表彰台に上った
この3人に続いたのが、フェルナンド・アロンソだ。18年のカナダGPで300戦を迎えたアロンソは、この年限りで一旦、F1を離れた。ただし、それは限界を感じたわけでも、F1に愛想を尽かしたからでもなかった。
「ターボ時代になってから特定のチームしか勝てなくなったことは、F1にとってとても悲しいことだ。それでも僕はF1が嫌いになったわけではない」
そう語っていたアロンソは21年にF1に復帰。その記録を今年のフランスGPで345戦まで伸ばし、今シーズン中にF1参戦の最多記録を更新するはずだ。
現在、最多記録を保持しているのはキミ・ライコネンだが、ライコネンにとって記録は単なる数字にすぎなかった。300戦に到達した19年のモナコGPで記録について尋ねられたライコネンは、「先週や次のレースと何も変わらない。結局はただの数字に過ぎない」と語り、静かに大記録達成となった週末を過ごした。
その後、ライコネンはその記録を349戦まで伸ばし、21年に引退した。最後のレースはマシントラブルでリタイアしたが、最後もじつにライコネンらしい言葉で締めくくった。
「これがレースというもの。20年という時間はあっという間で、良い思い出も悪い思い出もたくさんある。このような結果に終わったからといって僕のF1に対する思いに変わりはない。すべての思い出が僕の心にずっと残っている」
300戦は終わりの始まりか?
これらのドライバーを追って、ハミルトンは300戦を達成したわけだが、この記録達成にはひとつ気になる不吉なジンクスがある。それは、300戦という大記録を達成したドライバーは、その後1勝もしていないというもの。ハミルトン以前に300戦を達成した5人のうち4人はチャンピオン経験者。そんな偉大なドライバーでも、300戦以降はレーシングキャリアのピークを越えていたのだ。
それでもハミルトンに迷いはない。
「ここまで来られたことに感謝したい。22歳でF1にデビューした07年のオーストラリアGPのことはいまでも覚えている。いままでどんな困難に遭遇しようとも、ずっと決してあきらめずにやってきた。その気持ちはいまも変わらない。自分の中に燃料は十分残っている」
300戦目のレースで、ハミルトンは今シーズン自己最高位となる2位を獲得。これは伝説的なドライバーの誰もが、300戦以降に達成できなかった偉大な記録だった。
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