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「羽生結弦によって国の垣根を越え…」10年以上取材のライターが忘れられない羽生結弦22歳、韓国での四大陸選手権「今回が一番楽しかった銀メダル」
posted2022/07/24 11:00
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
Asami Enomoto
オリンピック、世界選手権、グランプリファイナル、グランプリシリーズ、全日本選手権……。
数々の大会に出場し、優勝した大会のみならず、記憶に焼きつく試合は数知れない。その中から容易に1つをあげることはできない。
羽生結弦は、自身の演技を通して、国内外に強い存在感を示してきた。競技生活を終えて次のステージに進むことを発表した会見は、だからこそ海外でも広く報じられた。会見で本人の発した言葉が世界を駆け巡り、海外から多くのメッセージが寄せられていることを聞き、ふと思い起こす光景がある。
それは2017年の四大陸選手権だ。
この年の四大陸選手権は、平昌五輪を翌シーズンに控えており、テスト大会としてオリンピックと同じ、「江陵アイスアリーナ」で開催された。
ショートプログラムでネイサン・チェン、宇野昌磨に続く3位となった羽生は、フリーで迫力ある滑りを見せる。
とっさの構成変更で見せた羽生の円熟味
冒頭の4回転ループ、2つ目の4回転サルコウに成功。後半の最初のジャンプ、4回転サルコウ-トリプルトウループでサルコウが2回転になったもののそのままでは終わらない。4回転トウループを決めると続くジャンプの構成を変更。トリプルアクセル-ダブルトウループの2つ目を3回転にし、トリプルアクセル-シングルループ-トリプルサルコウを4回転トウループ-ダブルトウループに、最後のジャンプをトリプルルッツからトリプルアクセルに変えたのだ。結果、フリーはトップ。優勝には手が届かなかったが2位に順位を上げた。
観る者を圧倒させたこの演技で特筆すべきは後半のジャンプの構成の変更だ。「リカバリー」は「シミュレーションしていませんでした」と語ったが、これはルールを考慮しつつ、とっさに構成を組み立てられる羽生の円熟味を感じさせた。
何よりも、この大会はその後への大きな糧となった。羽生はこう語っている。