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「羽生結弦によって国の垣根を越え…」10年以上取材のライターが忘れられない羽生結弦22歳、韓国での四大陸選手権「今回が一番楽しかった銀メダル」
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAsami Enomoto
posted2022/07/24 11:00
2017年四大陸選手権でフリーの演技をする羽生。当時、慰安婦像などをめぐって日韓関係が悪化していた最中だった
「一番楽しかった銀メダル」から見えた更なる可能性
「正直言うと、勝ちたかったです。表彰台に上る前に、ネイサン選手が1位のところにいて、うらやましいなと思いました。でも、四大陸選手権は3回目の銀メダルですけど、今回が一番楽しかった銀メダルじゃないかと思います」
「楽しかった」のは「自分ももっともっとレベルアップできるんだと感じた」ことにあった。
また、4回転を跳ぶ選手の増加などジャンプの高難度化に触れつつ語った言葉は、今思えば示唆的だ。
「もしかしたら(4回転)アクセルを跳ぶ選手が出てくるかもしれない」
強く印象に残る羽生の演技と言葉。ただそれだけではなく、羽生を巡る観客の熱狂に目を見張った。
韓国の仁川国際空港に到着した時点で多数のファンの出迎えを受けると、その熱狂は公式練習、試合と加速していった。
リンクに登場し、観客席には、たくさんの日本国旗が掲げられた。国旗だけでなく、羽生結弦の漢字や英字、顔写真を取り込んだものまでさまざまなバナーが見られ、国内の大会ではあまり見かけない色合いやデザインも目についた。場内は熱気に溢れ、歓声や拍手が一際多くリンクの中心に降り注がれる。日本からも多くのファンが駆けつけたのはむろんのこと、地元韓国や中国、さらに広くアジアの他地域から訪れたファンの姿もあった。
熱狂は観客席だけにとどまらなかった。日本語が堪能な大会のボランティアスタッフが羽生のことを日本人記者に尋ねる一幕も。記者会見場には人があふれ、まるでファンのように海外の記者がスマートフォンを片手に羽生の姿を写真におさめようとした。
海外で開催される国際大会で受ける声援から、羽生の人気の高さは知られていたが、あらためてそれを実感する機会となった。
国を問わず応援される根底には、オリンピック連覇をはじめとする競技での活躍があるのは論を俟たない。ただ、その人気の理由は実績だけにとどまらないように思える。
世界中のファンを虜にする羽生の求心力
かつて、美術の先生に「優れた作品は、いろいろな入り口をつくっているものです」と教わったことがある。羽生もまた、「入り口の広さ」がある。
声援を送るファンに羽生を応援するようになったきっかけを聞くとその答えはさまざまだった。