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4年前の甲子園、あの近江戦…金足農・吉田輝星はなぜピンチで笑ったのか? “優勝宣言”した大会前に「もう、引退後のことを考えてたんで」
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byBUNGEISHUNJU
posted2022/08/18 17:00
4年前の甲子園、あの近江戦…金足農・吉田輝星はなぜピンチで笑ったのか?
吉田はなぜ、ピンチで笑ったのか?
吉田の中には、2つの人格が存在した。
吉田は高校3年の6月の時点で、じつは大学進学がほぼ内定していた。チームと家族は納得済みだったが、吉田だけは同意し切れずにいた。そのため、甲子園出場が決まった直後、吉田はコーチの秋本元輝にこう直談判している。
「甲子園で優勝したら、プロに行ってもいいですか」
その時点のスカウトの吉田評では、上位指名は望めなかった。ならば、進学し、ドラフト1位で指名されるくらいの投手になってからプロに入った方がいいだろうというのが周囲の大人たちの意見だった。ただ、甲子園で優勝すれば、ドラフト1位指名の可能性も高まる。そうなったら、わざわざ大学を経由する意味もなくなる。それが吉田の論法だった。
秋本は吉田の言葉に面食らった。
「優勝って、本気か、おい、と。でも目は真剣なときのあいつの目でしたね」
一方、こんな面もある。金足農業では定期的に各学年で「髪切り日」を設定し、一斉に頭髪を五厘に刈り上げる。そうすれば、長い選手と短い選手が混在することがなくなるからだ。3年生たちは、秋田県大会の直前にきれいに頭を刈った。そして甲子園に出発する前、もう一度、髪切り日を設けるか否かで話し合った。すると、反対が圧倒的多数を占め、即座に否決された。吉田があっけらかんと告白する。