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「曙が若貴兄弟を吹っ飛ばし、ファンの夢を打ち砕いた」瞬間最高視聴率は驚異の66.7%…“最強のヒール”が輝いた伝説の名古屋場所
text by
荒井太郎Taro Arai
photograph byJIJI PRESS
posted2022/07/21 11:01
1993年、二子山部屋に出向き貴ノ花相手に激しい稽古をする曙。同期入門(花の六三組)の若貴兄弟にとって最大・最強のライバルだった
“サラブレッド”の兄弟たちに立ちはだかったのが、ハワイからやって来た身長2メートルを超す大男だった。彼らは昭和63年春場所が初土俵の同期生。入門当初からしのぎを削っていったが、曙が一足先に角界の頂点に上り詰め、外国出身初の横綱になった。
判官贔屓な日本人の国民性もあってか、ライバル競争はおのずと“ベビーフェイスvsヒール”という構図が出来上がり、熱を帯びていく。平成初期に沸き起こった空前の相撲ブームは“若貴”だけでなく、敵役を宿命づけられた男の存在も抜きには語れない。
曙と若貴兄弟、三つ巴の優勝決定戦へ
横綱初優勝に燃える曙は前場所同様、名古屋場所もリーチの長さを生かしたもろ手突きからのパワー全開の突き押しで、出だしから連勝街道をばく進。綱取りに挑む貴ノ花は3日目、琴錦に不覚を取ると、初日から9連勝としていた“お兄ちゃん”若ノ花もまた、琴錦の突き落としに屈して10日目に初黒星を喫した。
貴ノ花は11日目にも栃乃和歌に引き落とされて痛恨の2敗目。全勝の曙とは2差がつき、当時の横綱昇進は連覇が絶対条件というムードがあり、極めて厳しい状況となった。
独走態勢の一人横綱に「待った」をかけたのが、“若貴”と同じ二子山部屋の兄弟子だった。曙は12日目、安芸ノ島の引き落としに土をつけられたが、翌日は若ノ花を押し倒すと14日目もハワイの先輩、大関小錦を上手投げに降して1敗を守った。
千秋楽、若ノ花は1分を超す長い相撲の末、小錦を寄り切って13勝目。優勝決定戦の権利を手中にした。結びで曙が勝てば優勝、貴ノ花が勝てば13勝2敗で並ぶ同期生3人による優勝決定巴戦。注目の一番は貴ノ花が曙の左右ののど輪攻めを辛抱強く下から撥ね上げると、相手の引きにも乗じて押し出し。賜盃のゆくえは優勝決定戦に持ち込まれ、ファン待望の“兄弟対決”がついに実現かと、会場の愛知県体育館は異様な空気に包まれた。