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濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「パニック障害とうつ病と診断されていました」武尊30歳が休養会見でも話さなかった本音「涙が出なかった。これで全部失うんだって」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byKiichi Matsumoto
posted2022/06/29 17:03
那須川天心との一戦を終えた武尊に、現在の心境などについて聞いた単独インタビュー
試合が終わった瞬間「これで全部失うんだなって」
時おり涙も見せながら会見を終えた武尊に、インタビューの時間を取ってもらった。これまで何度もインタビューしてきたが、状況的にはひとまず最後になるだろう。今後しばらくは海外で生活し、あまり人と会わずに自分と向き合いたいという。とはいえ引退するわけではないと知って、聞き手としても少し気持ちが楽になった。
まず聞いたのは、那須川戦が終わった瞬間の心境だ。会見では「もう終わったことなので。あの時の僕の心と体でできる100%を出せたので悔いはないです」と語っている。しかし「負けは“死”だと思っていた」という武尊は、それをどう受け止めたのだろう。我々には想像もつかない世界だ。
「格闘家として終わったんだなと。こういう時がくるという覚悟はしてました。これから、全員じゃないにしても応援してくれる人、周りの人で離れていく人もいるんだろうなって、そんなことをリング上で考えてましたね。
だから負けた瞬間は涙が出なかったです。“これで終わった”という感覚で、終わったことに対しての涙っていうのはなくて。むしろ凄く冷静でした。これで全部失うんだなって冷静に受け止めて」
那須川にリング上で伝えたこととは
負けたらすべてを失う。覚悟はできていたから冷静だった。ただ受け入れるだけだったのだ。涙があふれたのは、リング上で那須川と言葉を交わした時だった。
「天心選手と話をするっていうことを考えたことがなくて。勝った後のことを想像したり、負ける覚悟もあったんですけど、天心選手と話す場面っていうのは、なぜか頭になかったんです。
あぁ、こうやって天心選手と会話するんだ、俺って。まず感謝を伝えました。それに今までのこともいろいろ。試合が決まるまで、お互い辛かったですから。天心選手は僕より7歳下。そういう(若い)人が僕と同じ苦しみを感じてたんだなって。ちょっとの時間でしたけど、言葉を交わして冷静さが崩れましたね。“こういう時がくるんだ”と思って」
那須川からの最初の対戦アピールは2015年。K-1は“K-1というジャンル”として他団体とは基本的に交わらない方針だから、武尊は「やろう」とは言えなかった。彼はその時すでにK-1のチャンピオン。団体を背負う立場だった。お互いの名前を出せない時期もあった。けれど対戦は実現し、勝ち負けがつき、お互いを労うこともできた。見ている我々にとっても、信じられないくらいエモーショナルな場面だった。