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カンボジア国籍で五輪出場、猫ひろし44歳が今明かす“大バッシング”の真相「今後は五輪を目指すつもりも、国籍を戻すつもりもない」
text by
音部美穂Miho Otobe
photograph byShiro Miyake/Getty Images
posted2022/06/24 11:03
2016年のリオデジャネイロ五輪にカンボジア代表として出場したお笑い芸人の猫ひろし
競技当日はあいにくの悪天候もあり、厳しいレース展開に。上昇する気温や湿度に苦しめられ、途中棄権する選手が続出。そんな中、猫は見事ゴールを果たす。完走した140人中139位だった。
「それまでで一番しんどいレースでした。情けないんですが、ラストのほうはフラフラで『早く終わらないかな』って考えていたくらい。
レース中、後ろからポンポンと肩を叩かれたんですよ。あの世から迎えが来たのかと思ったら、ヨルダンのメスカル・アブ・ドライス選手だった。『もうすぐゴールだから、二人で胸を張ってゴールしようじゃないか』みたいなことを言ってくれて、一瞬、すごく感動しました。
でも、ふと『この人に負けたら、俺ビリだな』と冷静になって。カンボジアは女子のマラソンが完走者中で最下位だったので、男子もビリで終わるのは避けたかった。それで、40km地点から、最後の力を振りしぼってスピードを上げたんです。
ゴールの瞬間は……言葉では言い表せないですね。世界全体がキラキラしているような感じで。ラスト300mくらいの直線で両脇から『ウワー』っていう歓声が聞こえて。スタジアムが揺れるような歓声の中で、走り終えたあの瞬間は、本当に幸せでした」
代表枠を争ったカンボジア選手からの「ある言葉」
国籍変更後、猫は日本とカンボジアを行き来して、カンボジアでの主要レースに出場し、現地の選手たちと共に練習を積んできたが、マラソン人気が高くないこともあり、猫の存在も一般の人にほとんど知られていなかった。しかし、そのカンボジアでも五輪効果は絶大だったという。
「それまでは、街中で走っていても誰も気づかなかったのに、五輪の後は、いろんなところで声をかけられました。いつもは塩対応だった行きつけのサウナのお兄さんが『マラソン見たよ。お前、カンボジア人だったのかよ!』とペットボトルの水をタダでくれたり、コインランドリーのおじちゃんが洗濯代を1回無料にしてくれたこともありました」
何よりも嬉しかったのは、ライバルであるカンボジアの陸上選手たちからの言葉だ。
「五輪出場が決まった時も、選手たちが『猫が行って当然だよ、誰よりも練習して1番を勝ち取ったのだから』と言ってくれた。そして、五輪後は、『カンボジアを世界に広めてくれてありがとう』って。五輪出場権を争い合うライバルであるにもかかわらず、そんなふうに言ってもらえて感激しましたね」