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「芸人なのに真剣にスポーツなんて…」マラソン活躍の裏でネタ番組のオファーは激減、猫ひろし(44)が抱えていた葛藤
text by
音部美穂Miho Otobe
photograph byShiro Miyake
posted2022/06/24 11:01
マラソンのカンボジア代表としてリオデジャネイロ五輪にも出場した、お笑い芸人の猫ひろし
テレビでの激走から“マラソン関連オファー”が急増
この時の走りがきっかけとなって、地方のマラソン番組やマラソン大会への出場オファーが続々と舞い込むようになった。
「走る仕事があることを知らなかったので、『マラソンって仕事になるんだ』って驚きましたよ。
でも、すぐにマラソンをナメてはいけないと思い知らされた。なまじ自信があったので、最初のうちは『直前に練習すればなんとかなる』なんて甘く考えていて、日常的な練習をせず、本番の3日くらい前から、ちょっとだけ走って大会に出たりしていたんです。
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当然ながら、そんなんじゃ全然勝てない。ある時、ゲストとして参加した大会で、自分よりもはるかに年上のランナーの方にゴール前で競り負けたことがあった。その大会に、同じくゲストで参加されていた谷川真理さんに『抜かれちゃいましたよ』って言ったら、『みんな真面目に練習しているんだから当たり前だよ!』って怒られて。『私、マラソンのジムをやっているから、そこで練習しなよ』と、まんまと勧誘されました(笑)」
ジムに足を踏み入れて初めて知ったのがランニングシューズのお値段。それまで、猫はなんとランニングシューズを買ったことがなかったという。
「高校時代に駆り出された記録会には、コンバースのオールスターを履いて出ていましたからね。その後も、普通のスニーカーで走っていて、ラン専用のシューズを履いたことがなかったんですよ。『ランニングシューズって1万5000円もするのか!』ってビックリしました」
「芸人だけど、大会でボケようとは思わない」
その後、猫は谷川さんのコーチでもある中島進さんの指導を受けることに。時を同じくして、東京マラソンが始まり、仕事で第2回東京マラソンを走ることになった。
「芸人だけど、大会でボケようとは思わなかったですね。『タレントで1番を取ってください』って言われてオファーされていたし、ここでふざけたことをやったら一時的に目立つかもしれないけど、その後仕事が来なくなるかもしれない。自分でいうのもなんだけど、根が真面目なんですよ。
タイムもどんどん伸びていた時期だったので、大舞台で真剣勝負したいという気持ちもありました」
赤坂マラソンにも、その後何度か出場し、優勝も経験。すべて真剣に走っていたという。
「僕がマラソンをやり始めたあたりから、ランナーの芸人が増えたんですよ。それでレベルがすごく上がった。だから、その中でも目立つには、やっぱり真剣に走らないといけないんです。赤坂マラソンの場合、4周合計で3.5キロと距離が短いので、マラソンという感覚ではなく、最初から最後までほぼ全速力で走る感じ。3周目まではある程度余裕があったけど、4周目の最後の坂はかなりきつかったです」