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「武尊選手に惚れました。なんていい漢なんだ、と」那須川天心の“あの左フック”を完璧にとらえたカメラマンが選ぶ「武尊、最高の1枚」
text by
長尾迪Susumu Nagao
photograph byTHE MATCH 2022/Susumu Nagao
posted2022/06/24 17:00
6月19日の『THE MATCH 2022』をリングサイドで撮影した長尾迪氏。“世紀の一戦”で那須川天心に敗れた武尊の魅力について熱く語った
「このあたりでカウンターが…」決定的瞬間を激写
私にとっても本当に大きな一戦でしたので、撮影に臨む下準備として6月19日より前の仕事をなるべく後ろに倒してもらって、少しずつ気持ちを作っていきました。コロナや体調不良が怖かったので、人に会うことも極力避けていたくらいです（笑）。もちろん選手たちが背負っているものには到底及びませんが、私自身も体と心を整えて、この日にすべてを注ぎたかった。
今回の試合では、天心選手が武尊選手からダウンを奪った左フックをほぼ完璧なタイミングで撮ることができました。たまたま一番いい角度にいたという幸運に加えて、月並みですが撮影者として「ゾーン」に入っていた感覚があります。
天心選手と武尊選手がリングインして試合が始まる直前から、お客さんの声が遠くなり、時間の進みが遅くなっていきました。撮影にものすごく集中できているときに起きる現象です。あとで見返したらダウンのシーンは一瞬でしたが、撮っている最中は速いと感じませんでした。選手の動きがスローモーションのように見えて、次の攻防が読めたからこそ撮れたのだと思います。「このあたりでカウンターが……」という予感があり、その通りに左が入った。2018年9月の『RIZIN.13』で行われた那須川天心vs.堀口恭司、あの試合以来の感覚です。いつもこんなふうに写真を撮れたらいいんですけどね（笑）。
完璧なカウンターが入ってダウンした武尊選手ですが、シャッターを切りながら直感的に「立ってくるだろうな」と思いました。1ラウンド終了間際でしたし、なにより彼がこれくらいで折れるわけがない、と。
なぜ心を揺さぶる名勝負になったのか
3ラウンドしかない以上、「10-8」の2ポイント差を追いつくには、ダウンを奪い返すか、KOするしかありません。2ラウンド以降、武尊選手は逆転を狙って大振りになっているように見えました。とはいえ、一発入ればわからない。軽量級離れしたパンチの威力は、リングサイドで撮っていても感じました。その緊張感があったからこそ、あれだけの名勝負になったのだと思います。
2ラウンドではバッティングや、武尊選手が天心選手を投げてしまうような場面もありましたね。それ自体は褒められたことではないかもしれませんが、なにがなんでも勝つんだ、ダウンを奪い返すんだ、という凄まじい闘志が伝わってきました。どれだけ空振りしようが、カウンターを合わせられようが、一歩も引かずに最後の一瞬まで遮二無二攻め続ける。見る者の心を揺さぶる素晴らしいファイターです。
