ゴルフボールの転がる先BACK NUMBER
「キミ、身長止まったでしょ?」伸び盛りの高校生が受けた残酷な宣告…“158cm”のゴルファー比嘉一貴(27)が賞金王を目指す理由
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph byKYODO
posted2022/06/15 06:00
国内メジャー「BMW日本ゴルフツアー選手権森ビル杯」を制し、青木功JGTO会長(左、180cm)から優勝杯を受け取る比嘉一貴(27歳)
高校卒業後のプロ転向を考えていたにも関わらず、松山英樹らを輩出した東北福祉大に進んだのは、体育のバスケットボールの授業で指の骨を折ったのが発端。日本ツアーの出場権を争う予選会の欠場を余儀なくされたところを阿部靖彦監督に拾ってもらった。
4年後、今度こそと挑戦した予選会でまたトラブル。鳴り物入りでプロの世界に飛び込むはずが、ラウンド後に提出するスコアカードに誤記があり、失格処分を受けた。「それまでに何百回やってきたアテストで、その場面でミスが出るかと……。何回も確認したのに」
“就職先”の第一候補だった日本ツアーの道を自ら閉ざしてしまった比嘉は、海を渡りアジアンツアーに出向いた。一線級が出場するレギュラーツアーではなく、下部ツアーにも参戦。2018年、自身の初戦はバングラデシュでの試合だった。それも大会側とのメールでのやり取りがうまくいかず、「出られるか分からなかったけれど、とりあえず行ってみた」。
そんな状態だったから現地の入国審査で止められた。空港内で右往左往していたところを偶然会った日本人選手に救われ、なんとか出場にこぎつけた。
数日後、その試合は比嘉の記念すべきプロツアー初優勝大会になった。
「当時はいつか大成するための修行じゃないですけど、そういう時期だと思っていた」。“なんくるないさ”に、こじ付けようとは思わないが、逆境での発想転換の力は強さでもある。
「大柄でなくとも第一線で戦える」
表彰式でこれまで何度か羽織ってきたチャンピオンブレザーはいつも、裾や袖丈が少々長く、ダブついて見える。
「僕が賞金王になったら夢がある」
比嘉は言う。その“小さな”体躯を誇りにして、自分のゴルファーとしての伸びしろを誰よりも信じて。
「他の競技では対戦すらしないかもしれない180cm以上の選手たちを相手にして、勝てるのはゴルフの良いところでもある。僕が活躍すれば、プロゴルファーを目指しているジュニアや、他の競技でも似たような境遇にある人に勇気を与えられるかもしれない」
「この世界にはハンデを、悩みを抱えている人もいる。でも僕は世界一になった宮里藍さん、(英国の)ルーク・ドナルドを見て、大柄でなくとも第一線で戦えると、あきらめなかった。僕にもできると信じてやってきた」
ゴルフの、スポーツの世界だけにとどまらないその思いを次世代に繋ぎたい。
毎日のティイングエリアで、ロープサイドにいるギャラリーからの「小(ち)っさ……」という囁きは、実は彼の耳に届いている。
「でも、『オレのことも見てくれてるんだ』って思う。それに見た目は小さいけれど、一緒に回っている大きな人よりも飛ばしてやろうと思うんですよ」
158cmの身体から繰り出されるビッグボールへの感嘆の声は、同伴競技者に送られるものよりもいつも大きい。