ゴルフボールの転がる先BACK NUMBER
「キミ、身長止まったでしょ?」伸び盛りの高校生が受けた残酷な宣告…“158cm”のゴルファー比嘉一貴(27)が賞金王を目指す理由
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph byKYODO
posted2022/06/15 06:00
国内メジャー「BMW日本ゴルフツアー選手権森ビル杯」を制し、青木功JGTO会長(左、180cm)から優勝杯を受け取る比嘉一貴(27歳)
ボールが飛んでいく爽快感たるや「雷に打たれたような衝撃」だったという。今はなき米軍所有のコースは自由なプレースタイルを許容してくれた。それからはどこから打つにもティアップしてドライバーで、グリーンの近くからはパターで打った。空振りすることもなく、わずか2本のクラブで“100切り”にも成功したという。
「その日の夜、両親に言ったんです。『プロゴルファーになります』って。父も母も戸惑ったと思います」
それからは、いわゆる天才少年といった具合のサクセスストーリー。そもそも前から「自分の責任で勝敗が決まる」個人スポーツのほうが性に合っているような気もしていた。世間はちょうど、沖縄が生んだスター、宮里3きょうだいの活躍に沸いていた頃。比嘉は数年後、縁あって3人の父である優コーチの指導を受ける機会もあった。
沖縄のジュニア大会を次々と制して頭角を現し、九州へも出向いた。「家庭は決して裕福ではありませんでした。両親は本当に僕のことを応援してくれましたけど、沖縄から九州、全国への遠征費ってすごく高くて。少しでも(家計への)負担を減らしたいから、僕は小学生の時から県外にも1人で遠征に行っていた」
高1でプロツアーに出場
中学卒業後は強豪ゴルフ部を持つ県立本部高へ。同姓で2学年上の比嘉真美子とのペアは全国でも有名だった。高校1年生にしてプロツアー(ANAオープン)に初出場。予選で落ちたものの、本戦に繋がる月曜予選会でプロを抑えてトップ通過したほどだ。
「『プロゴルファーになりたい』という憧れより、『プロのツアーで勝とう』と思う方が早かった。(石川)遼さんがアマチュアで優勝して(2007年)、『おれもそれをやりたいな』って思ったり」
まさに順風満帆。進むべき航路はこれからもきっと明るい。希望に満ちていたはずの船の前にはしかし、思わぬ大波が立ちはだかった。