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「キミ、身長止まったでしょ?」伸び盛りの高校生が受けた残酷な宣告…“158cm”のゴルファー比嘉一貴(27)が賞金王を目指す理由 

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桂川洋一

桂川洋一Yoichi Katsuragawa

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posted2022/06/15 06:00

「キミ、身長止まったでしょ?」伸び盛りの高校生が受けた残酷な宣告…“158cm”のゴルファー比嘉一貴(27)が賞金王を目指す理由<Number Web> photograph by KYODO

国内メジャー「BMW日本ゴルフツアー選手権森ビル杯」を制し、青木功JGTO会長(左、180cm)から優勝杯を受け取る比嘉一貴(27歳)

 2年生でナショナルチームにも選抜された高校時代、足を怪我した比嘉は治療のため病院を訪ねた。大きな故障ではなかったが、念のため受けた精密検査のレントゲン写真を見た医師が何気なく言った。

「キミ、身長止まったでしょ?」

 体の各部分の骨は、端にある軟骨組織(骨端線)が伸びて、いずれ硬い骨になる。動物はこの過程で背が高くなったり、手が長くなったりと身体的に成長する。大人になるにつれて骨端線は消える(“閉じる”と表現することが多い)ため、まさに身長の“伸びしろ”と言えるものだ。

「閉じているね。線がもう毛の1本すらないよ」

 比嘉の足からそのサインは消えていた。

小学校の頃は“後ろから3~4番目”

 高校に入るまでは、クラスでも決して背が低い方ではなかった。「小学校の頃は(背の順で)後ろから3番目とか4番目。だからハンドボールでも先発メンバーに選ばれたりしたんです」。それがいつしか、先頭に近づいていった。

 牛乳は毎日飲んだ。背が伸びるというサプリメントも何度も試した。「筋トレをすると身長が止まる」という噂にも忠実だった。寝室の枕元に置いたのは懸垂ができる鉄棒。朝目覚めて、5分ほどぶら下がるのが日課だった。

「伸ばす努力をしていたところで『もう伸びない』と言われて。今までにないくらいショックで……。足の怪我なんて忘れちゃいました」

 ボディコンタクトのないスポーツとはいえ、ゴルフのパフォーマンスに身体の大きさが無関係であるはずがない。ショットのスイングにはスピードを伴う。四肢が長ければ長いほど、物理的に遠心力が増す。

「背が高ければうまいとは限らないけれど、僕ができないことを大きい人ができる可能性は高いと思う。特にティショットやロングアイアン、高い球を打つのが僕には大変。身長があると良いなと思う」

 日の丸を背負ったアマチュア時代、現在の世界ランク1位、スコッティ・シェフラーら同年代の海外の選手たちを見上げては、彼らを羨ましく思ったのも無理はない。

 だが比嘉はプロゴルファーになる、プロツアーで勝つ夢を諦めなかった。

「背が伸びないなら、もう筋力トレーニングを始めよう」とワークアウトに精を出すようになった。今ある幹の太い身体はその時から作り上げたものだ。大学卒業までナショナルチームを引っ張る存在であり続け、傍から見ればエリート街道を歩いてきた一人でもある。

 ただし、悠揚たる物腰で、多くは冷静なタイプだが、これまでのキャリアを振り返るとなんだかバタバタも目立つ。

【次ページ】 トラブルが続いた紆余曲折のキャリア

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