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「年を重ねても、僕はきっと問題児のまま」「遅刻の常習犯」鳥海連志23歳、“いたずら者なスター”という新・パラアスリート像
text by
鳥海連志Renshi Chokai
photograph byAFLO
posted2022/06/03 17:02
2021年ベストドレッサー賞を受賞するなど、鳥海連志は車いすバスケ界にとどまらない活躍を見せている
人のことを考えることはあっても、自分の本心をさらけ出すという意識が希薄だった僕に、「思ってることは言わないと伝わらないし、言ってくれたらきっと誰かが助けられる」と、その大切さを教えてくれたのもアキラさん。
大学を3年で中退することを決め、後のキャリアにWOWOWのアスリート雇用を選んだのも、当時すでにWOWOWに所属していたアキラさんの存在が大きかった。
常に最年少という立場で競技をつづけてきた僕は、たくさんの人に支えられて今の僕になれた。それに気づけたことで、僕はいっそうブレない強い心を手に入れられたような気がする。
そして、先輩たちが僕にしてくれたように、後輩たちにも何かを与えられる存在になっていきたいと強く思っている。
和を乱し、チームから信頼を失った時期もあったが
〈#35 最後は実力で証明する〉
チームから信頼を失った時期のことは、ここまでに何度か触れた。
5年かけて目指してきた東京パラを一丸となって戦い、メダル獲得という目標を成功させたい。何より、チームに必要な存在として認めてもらいたいとの思いで必死に信頼の回復に励んだ結果、なんとか本番前にフラットな関係性を取り戻すことができたと思っている。
その中で唯一、リュウガ(赤石竜我)はフラットな関係性になることが難しかった。
持ち点は同じ2.5点で、ディフェンスやスピードといったプレーの特徴も似ている。リュウガはかつて僕がアキラさんに向けたように……いや、それとは比べものにならないほどに強烈なライバル心を持った熱い男だった。
真面目な性格のリュウガには、チームの和を乱してばかりの僕が気に食わなかったのだろうと思う。
僕は彼の言動の端々からその雰囲気を感じ取っていたが、あえて受け流すようにしていた。
東京パラの1次リーグ3戦目のスペイン戦。前日のカナダ戦でメンタルを大きく崩した僕は大会に入って初めてスタメンを外れ、代わりにリュウガがコートに立った。
「俺はメインでリュウガがサブってわけじゃないから」
リュウガらしいプレーでチームを引っ張り、スペイン相手に互角に戦っていた。
僕は後半から出場し、追い上げをはかったが、前半の得点差を覆すことができず黒星に終わった。試合を終え、選手村へと戻るバスを待っていると、珍しくリュウガが声をかけてきた。
「休ませてあげたかったけど、俺じゃあちょっと力不足だった」
そして、「やっぱりレンシはすごいわ」と言葉をつづけた。
自分が出た前半と、僕が出た後半。内容とお互いのパフォーマンスを比較して、思うところがあったと話してくれた。
人間としての僕に納得したわけではないだろうが、少なくとも選手として力量を認め、チームに必要な選手としてリスペクトしてくれた。そうして僕も、同じようにリスペクトを言葉で伝えた。
「俺はメインでリュウガがサブってわけじゃないから。リュウガはリュウガのやれることをしっかりやってたと思うし、いいプレーをしていたよ」