あの千代の富士を高々と…“おしん横綱”の集大成

　千代の富士のお膝元、北海道巡業のときでさえ、相手に花を持たせる発想は一切なかった。研究の集大成と言える一番が、昭和58年（1983年）秋場所の千代の富士との横綱同士による楽日全勝決戦だった。右四つに組み合うと千代の富士が先に得意の左上手を引き、有利な体勢に持ち込んだ。しかし、隆の里にとっては想定内だった。

「攻めてくるときは必ず（腰を）深く入れてくる。廻しはそのときに取れる」

　上半身の力を抜いて、その時を待った。投げるにしろ、吊るにしろ、千代の富士が攻撃を仕掛けるときは必ず廻しを引きつけながら腰がグッと入る。案の定、千代の富士が吊りにいこうと両廻しを引きつけたとき、腰を入れて体を密着させてきた。その瞬間を見逃さなかった隆の里は左上手をガッチリ引いて両者がっぷり四つ。こうなれば“ポパイ”と言われた怪力がモノを言う。高々と吊り上げ、双葉山以来45年ぶりとなる新横綱全勝優勝を成し遂げた。15日制下では史上初の快挙だった。

横綱昇進直後の1983年9月場所。持ち前の怪力で千代の富士を高々と吊り上げる　©JIJI PRESS

　妥協を一切許さず、非情と孤独に徹したからこそ、“おしん横綱”は、期間こそ短かったが最強横綱を凌駕して光り輝いた。その34年後、勝負師としての心得をしっかり受け継いだ愛弟子の稀勢の里も、全勝こそ終盤で惜しくも逃したが、師弟2代にわたり新横綱優勝を果たしたのだった。横綱としては短命に終わったことも、奇しくも師弟で共通している。

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